コラム

2024年6月25日
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【法律のプロが解説!】2024年6月7日「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書(案)―我が国保険市場の健全な発展に向けて―」を読む際のポイント③

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」を執筆。

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【法律のプロが解説】2024年6月7日「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書(案)―我が国保険市場の健全な発展に向けて―」を読む際のポイント①

各章の重要なポイント(続き)

Ⅳ.その他の論点

下記の3つの論点が個別の論点として取り上げられています。
1.特別利益の提供の禁止
2.個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け
3.企業のリスクマネジメント意識の向上

特別利益の提供の禁止

特別利益の提供の禁止は、保険業法300条1項5号で定められている事項であり、募集人が、契約者または被保険者に対して、保険料の割引、割戻し、その他特別利益の提供を約束すること、または提供することを禁じるものです。その趣旨は保険契約者間の公平性の確保にあると言われています。

本報告書では、「保険加入を条件に車両価格を値引くなどの行為を行っていた旨が指摘されているほか、一部の代理店において、保険契約を獲得するために、保険契約者間の公平性を損なうようなサービスが行われている」(本報告書20p)としています。

また、特別利益の提供に関しては、金融行政モニター委員と金融庁幹部との意見交換会(令和6年3月25日)においても以下のような議論がなされています。

・保険募集における特別利益(以下、特利)の提供の禁止に関する意見を担当する中で、保険ビジネスにおいて、国民が、自分の損得を超えて「公正か」ということに敏感な社会になってきたのかもしれないと感じる。そういった中で今回のような大きな事件が損保業界で発生したことから、法律を超えたところで、今のあり方がどうなのか、見直すべきではないか。

 顧客本位の業務運営は、元々、資産運用の世界で出てきた考え方であり、これまで保険会社には当事者意識がなかったのではないか。そのため、保険会社には、実際に7つの原則が自らに当てはまるのかを考え直していただき、保険業界自身で顧客本位の業務運営を見直し、自主的なプリンシプルという形で作り直していただくことが望ましい。金融庁はそれをサポートしてほしい。

・この1年、特利の提供禁止に関する意見が多かったように思うが、これは難しい問題。保険商品は原価が事後的に決まるため、一律に線を引くことは難しく、規制をかけてもすぐに抜け穴ができてしまうため、理想論ではあるが、インセンティブを考慮した規制、チャネル別の制度設計を考えなければならない。

出典:https://www.fsa.go.jp/monitor/ikennkoukannkai20240325.html

また、参考になるものとして、生命保険協会のガイドラインでは、「例えば、通信事業(携帯電話会社等)を営む兼業代理店が、通信事業の顧客に対して、保険契約への加入が条件であることの訴求と併せて、通信事業に関する契約に基づく顧客の支払債務(携帯電話の利用料金等)を減免する行為は禁止行為に該当すると考えられる。」(生命保険協会令和5年6月22日「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」22p)としていることもあり、損保業界においても明確なガイドラインなどが示されることが考えられます。

個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け

この項では、自動車保険の例が具体的に検討されています。

「自動車保険について、少額事故の場合に保険金請求をしないという判断をする契約者が相応に存在するが、これは、事故による損害額の大きさにかかわらず、3等級下がるという業界ルールがその大きな要因となっていることが考えられる。少額事故であれば免責とする、という選択肢を保険募集時に示すと同時に、前述の業界ルールを変更し、保険料に損害額の多寡という視点を入れることで、保険契約者自身のリスクマネジメントの向上に資する、との指摘もあった」(本報告書20p)

もともとの議論を確認しますと、有識者会議第2回における増山メンバーの発言の部分を読む必要がありますので、その部分を引用します。

「こちらが一つの入り口管理のところで、もう一つ、出口管理のところで契約者の役割というところでお話をさせていただきますと、保険事故が起きたとき、実は保険契約者イコール被保険者で考えますと、何をしなければいけないかという損害の立証義務というのは本来、被保険者が負っていて、それを保険会社に提示をし、保険会社と協定して保険金を払ってもらうというのが建付けなわけですけれども、残念ながら個人の契約者の場合は、この事故を起こして自動車の修理代金が幾らであるかというのはなかなか知見を持っていらっしゃらないということなので、基本的には実務としてはもう修理工場さんに丸投げをしてしまいますというのが現状だと思っています。

 それを踏まえて、現状の自動車保険制度で考えますと、今、相手のある事故をされて自動車保険を使いますと、皆さん御存じのとおり、3等級下がりますというルールになっています。これが損害額が10万円だろうが、100万円だろうが、1,000万円だろうが、同じ3等級ダウンですと、同じなんですね。ですから、契約者からすると、一旦保険を使いますと決めた後は、あとは、損害額が幾らになって、保険会社が幾らで協定してくれるか、基本的にインタレストがないということになっています。一方で、同じ自動車保険でも10台以上のフリート契約になりますと、成績算定制度というのがありまして、当然もらった保険金というのは将来の自分の保険料に跳ね返ってくるということになりますから、契約者としても、この修理代金が適正か、この保険金を頂くのが適正なのかという契約者の目が入るということになると思います。

 ですので、個人の場合はどこまでそれができるのかという問題はありますけれども、例えば先ほどの10万、100万円、1,000万ではやっぱり事故の規模も全然違いますし、そういったところに契約者自身もなるべく合理的で経済的な損害額に抑えると、将来の自分の保険料にも跳ね返りが少ないというような、少しそういった制度面での改定を入れることによって、修理工場さんに対しても抑制効果が少しでも働くんじゃないかということで、ここもリスクマネジメントの向上という観点から資するのではないかと思う次第です。」

(出典:有識者会議第2回増山メンバー発言 https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/gijiroku/20240425.html

企業のリスクマネジメント意識の向上

この項目では、日本企業のリスクマネジメント意識を向上させる必要性が強調されています。
経営環境の変化に伴い、企業は主体的なリスクマネジメントを強化する必要がありますが、取り組みは依然として漸進的との指摘がなされました。また、リスクマネジメントの一環として保険を適切に活用することが重要であり、自社のリスクを適切に評価して定期的な見直しと適切な保険商品の選択が求められます。
この点について、付保範囲が不適切な保険選択をしてしまうと経営責任を問われるリスクもあるため注意が必要とされました。
また、損害保険会社にも多くの事項が求められました。

• 企業へのリスクマネジメント支援:
 - リスクマネジメントや保険商品に関する専門知識を企業と共有し、企業のリスクマネジメントの高度化を支援すること。

• 質の高い保険商品の提供:
 - 企業にとって適切かつ質の高い保険商品を提供することで、企業のリスクマネジメントに実質的に貢献すること。
 - 不適切な便宜供与を避け、公正かつ透明な方法で保険商品を提供すること。

• 企業のリスク評価サポート:
 - 企業が自社のリスクを正確に評価できるようサポートし、そのリスクを適切にカバーする保険商品の選定を支援すること。
 - 企業の事業変化に応じて保険の付保範囲を定期的に見直すよう助言すること。

• リスクマネジメント意識の向上:
 - 企業のリスクマネジメント意識を高めるために、規制の見直し等の提案を行い、リスクマネジメントの重要性を企業に認識させること。

Ⅴ.おわりに

本報告書の末尾では、今後の対応の方向性として、「これまでの 有識者会議における議論を踏まえ、直ちに実現可能なものについては速やかに実施に向けた 作業が進められること、更なる調査・分析が必要なものについては関係者において速やかに 調査等が行われることを求めたい。」(本報告書22p)とされており、本報告書の内容が実際に実施の方向で動き出し、実務に影響を持つこととなります。
また、「法律改正が必要と考えられる論点については、今回の有識者会議で十分に議論しきれなかった論点も含め、今後、金融審議会の開催も視野に、金融庁を中心に必要な対応が行われることを期待したい。」(本報告書22p)とされ、法改正が必要と考えられる論点については具体的な検討が始まったものと思われます。

【2024年6月25日追記】

2024年6月25日、正式な報告書が公表されました。 報告書案との主な差分は以下のとおりです。

・脚注6として、金融庁および財務局のモニタリング強化のために必要な人員増強を行うべきとの加筆がなされました。

・脚注8として、損害保険募集人は、リスクの洗い出し・評価、リスクコントロール(回避・低減)、そして残余リスクに対する移転手段としての保険提案といったリスクマネジメントフレームワークを実践し、顧客のリスクマネージャーのような役割を果たしていくべき、との指摘が加筆されました。

・11ページの入庫紹介の項に、「なお、客観的な要素に基づく、顧客のニーズに沿った自動車修理工場の紹介を実現するという観点からは、各損害保険会社が、実際に自動車修理工場のサービスを利用した顧客による評価等を集約したデータベースを用いて、顧客に最適な自動車修理工場を紹介するシステムを構築するといった対応も考えられる、との指摘もある。」と加筆されました。

(参考:「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書の公表についてhttps://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20240625.html

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昨今の保険業界は急速に変化し、将来の方向性に対する不安や悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

令和6年6月25日、金融庁のHPにおいて「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議の報告書」が公表されました。

本報告書は損害保険業界の現状と課題、そして今後の改善策について詳細に述べており、今後の損保業界に対する影響が大きい、重要な報告書です。

そこで、今回のウェビナーでは法律のプロが有識者会議の報告書を詳しく解説します。

本セミナーでわかること

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今回はセミナー後に見逃し配信も用意しておりますので、当日参加できない方もぜひ視聴予約をしてみてください。

皆様のお申し込みをお待ちしております。

参加方法

申込後にwebinar@bizibl.tvより専用の参加リンクを送付いたします。
※迷惑メール対策などをされているかたは、迷惑メールボックスにご案内メールが入っている場合がありますので、ご確認下さいませ。

登壇者紹介

中村 譲
株式会社hokan
法務・コンプライアンス責任者/弁護士

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。

永井 佑次郎
株式会社hokan/セールス
2016年に株式会社ワークスアプリケーションズへ入社、その後株式会社ヤプリを経て2020年にhokanへ入社。2人目のセールスとして、地域密着型代理店を中心とした保険代理店へのコンサルティング提案を担当。ユーザー獲得数トップの実績を誇る。

参加時の注意事項

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https://www.corp.hkn.jp/privacy-policy

 

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