コラム
再保険等の活用に関する監督指針改正についてのパブリックコメントが公表されています

金融庁は令和8年7月1日、「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案に対するパブリックコメントの結果を公表しました。令和8年4月8日から5月11日にかけて意見募集が行われ、23先の個人・団体から、改正案に関係するものとして計48件の意見が寄せられています。改正後の監督指針は、同日から適用されています。https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260701/20260701.html

前回は、今回の監督指針改正案について、主に、①保険契約を再保険に付した場合の責任準備金の不積立て、②資産集約型再保険を踏まえたストレステスト、③保有・出再に関するリスク管理の高度化、という観点から取り上げました。特に、責任準備金の不積立てについては、形式的な契約条項の有無だけではなく、リスク移転や再保険金等の回収可能性を実質的に見る方向であることを解説しました。https://hkn.jp/column/93/
今回はパブリックコメントのなかで気になるか所を追っていきます。
1. 既存契約について、直ちに不積立ての判断変更を求めるものではない
実務上最も関心が高かったと思われるのが、「既に締結されている再保険契約への影響」です。
この点について、今回の改正は責任準備金の不積立ての可否に関する考え方を明確化し、着眼点を示すことを目的とするものであり、改正のみを理由として、既に締結されている再保険契約について責任準備金の不積立ての判断変更や事後的な是正を求める趣旨ではないと回答しています。また、既契約については、契約条件の変更が容易でない場合があることや、財務諸表・開示への影響を踏まえ、直ちに法令違反として取り扱うことや一律の対応を求めるものではないとも説明されています(回答№1,2)。
もっとも、この回答は「既存契約であれば今後も無条件に問題にならない」という意味ではありません。
あくまで「改正のみを理由として」一律に判断変更や事後是正を求めるものではないとされていますから、個別契約の経済的実態として、リスクが十分に移転していない、または再保険金等の回収の合理的な蓋然性に疑義がある場合には、今後の監督・会計・リスク管理上の説明が求められる可能性は残ります。
2. 責任準備金の不積立ては、形式ではなく「総合的判断」
責任準備金の不積立ての可否について、従前から示してきた「リスクの将来にわたる確実な移転」と「再保険金等の回収の蓋然性」という二つの着眼点を明確化した上で、契約構造や経済的実態等を踏まえた総合的な判断を求めるものだと回答しています。
№28
保険業法施行規則第71条第1項は、責任準備金の不積立てを一律に義務付けるものではなく、一定の場合にこれを認める規定です。 また、監督指針の該当箇所は、従前より、保険会社が適正な経理処理を行うに当たり留意すべき事項を示してきたものであり、 今回の改正は、現行の監督指針において示されていた「リスクの将来にわたる確実な移転」及び「再保険金等の回収の蓋然性」という二つの着眼点を明確化するものです
また、「再保険契約によって移転されるリスクの所在」については、保険リスク、資産運用リスク、事業費リスク、解約リスク等について、契約条項、キャッシュフロー構造、損益配分、担保設定、リキャプチャー条項等を踏まえ、形式的には再保険に付しているように見えても、リスクや損失が実質的に再保険会社に移転せず、元受保険会社側に残存していないかを確認する観点であると説明しています(回答№8)。
この回答から、「契約上は再保険に付している」「再保険会社に一定の格付がある」「担保が設定されている」といった形式的な説明だけでは足りず、当該再保険契約全体として、どのリスクが誰に残っているのかを説明できる必要があることが確認されています。
3. 「リスクが出再者に戻る構造」とは何か
今回の監督指針改正案では、保険事故発生率悪化時等に出再者が実質的な補てん義務を負い、リスクが出再者に戻る構造が生じていないかが着眼点として示されていました。
この点について、金融庁は、「リスクが出再者に戻る構造」とは、保険事故発生率の悪化などで損失が出たときに、その負担を実質的に出再者側が負うような条項や設計を想定したものだと回答しています。他方で、一般的な再保険の更新において、更新後の再保険料が高くなること自体は、「リスクが戻る構造」に当たるものではないとも説明しています(回答№11)
さらに、具体例として、契約条項の定め方によっては、再保険金が一定水準に達すると再保険金の支払いが制限され、出再者が追加負担を負うなど、損失負担が再保険者から出再者へ実質的に戻る仕組みが考えられるとされています(回答№12)
4. リキャプチャー条項は「一律に問題」ではないが、一方的な権利には注意
受再者の裁量により、一定時点または一定事象発生時に、再保険契約の一部または全部の終了・リキャプチャーが生じ得る構造が監督上の着眼点となります。
この点について、受再者に一方的な解約・終了・リキャプチャー権がある契約については、損失局面で再保険者が負担を回避し得ることから、リスク移転の継続性・確実性を損ねるため、原則として、責任準備金の不積立ての可否を判断する際の着眼点を十分に踏まえた取扱いとはいえないとの考えを示しています(回答№13)。
一方で、契約違反時、相手方の信用事由の発生時、規制変更等に伴い、あらかじめ合意された条件に基づきリキャプチャーが行われる場合など、一般的な契約実務において合理的と認められる条項を一律に問題とする趣旨ではないとも回答しています(回答№40)。
5. 担保は重要だが、再保険者の健全性評価の代替ではない
AIRでは、資産運用リスクを含めたリスク移転が問題となるため、担保設定や信託による分別管理の実効性が重要になります。
パブリックコメントでは、担保の設定や分別管理が再保険者の健全性評価に代替するものなのかという点も問われました。これに対し、担保の設定や分別管理はリスク移転の実効性を判断する上で重要な要素の一つであるものの、それ自体をもって再保険者の健全性評価に代替するものではないと回答しています。担保の状況に加えて、再保険会社の財務基盤や継続的な履行能力等を含め、総合的に評価することが前提とされています(回答№41)
また、グループ内再保険についても、原則としてグループ外取引と同等の水準のリスク管理が求められる(回答№14)とされています。再保険者の財務状況、資産運用方針、ガバナンスの独立性、リスク管理能力等を踏まえ、出再者が独立したリスク主体として実質的に把握・管理しているかが問われます。
この点は、グループ内再保険を活用する場合に特に重要です。グループ内だから安全、グループ内だから簡略化できる、という整理ではなく、元受会社単体として、また必要に応じてグループベースでも、リスク移転と回収可能性を説明できる必要があります。
執筆者プロフィール

兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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