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2024年8月5日
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【法律のプロが解説】募集コンプライアンスガイドの追補版が公表されました

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」を執筆。

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2024年7月25日、日本損害保険協会は「募集コンプライアンスガイド」の追補版を策定しました。

このガイドラインは、「金融庁が設置した「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」で示された課題の概要を取りまとめるとともに、これまで本ガイドに解説等がなかった、「代理店に対する不適切な便宜供与の禁止」を新設したほか、「独占禁止法の遵守」について、追補版として取りまとめ」たものと説明されています。(https://www.sonpo-dairiten.jp/oshirase/complianceguide-tuiho_20240725.html

有識者会議の報告をうけて策定されたガイドラインとして、特に「代理店に対する不適切な便宜供与の禁止」については、保険会社間の解釈のブレを生じさせないため、重要な役割を担うものとなります。

有識者会議ではいわゆる「ニギリ、ノルマ」が確実に解消されるべきものと指摘されていたことを反映しているほか、実質的な判断が必要となる行為類型について「以下のような行為については、価格・経済価値、費用分担、数量・規模、頻度・期間によっては、社会通念に照らして妥当性がなく、不適切な行為とみなされるおそれがありますので、十分に留意する必要があります。」と具体例が示されています。

出典:募集コンプライアンスガイド追補版8頁
https://www.sonpo.or.jp/news/notice/2024/pdf/tuiho_202407.pdf

さらに解消すべき便宜供与については新たなガイドラインが策定されると明記されています。そこでは、数量、金額、規模、頻度についても一定の目安が言及されるものと予想され、現時点で判断の仕方について以下の3つの視点が提示されていますので、この視点を踏まえた基準が示されていくものになると考えられます。

  • 公正な選定プロセスを経ず(合理的な理由なく)、購入や発注を特定の代理店に集中させていないか
  • 保険会社の役職員または取引先などに購入や発注等に関して強制力が及んでいないか
  • 本来、代理店がなすべき事業活動(役務)を無償で肩代わりしていないか

また、最後の視点に関連し、いわゆる社員代行の禁止についても「保険会社の社員が、代理店に代わって実質的な保険募集を行うこと(いわゆる社員代行)は、不適切な保険募集につながるおそれがあるものとして、監督指針に反する行為とみなされるため、行ってはなりません。」との言及がされました。

そのほか、乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保についても「乗合代理店に対して、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」(金融サービス提供法)における顧客等に対する誠実義務の趣旨も踏まえ、適切な比較推奨販売を行うよう求めること。」(3頁)とされた点が重要です。

この点については、2024年内にも監督指針が改正され、代理店が特定の保険商品の加入を勧める際、顧客にとって最も利益のある商品を選ぶよう求め、顧客にとって最適と考える理由も説明させるとの報道があります(保険代理店、商品勧誘で顧客本位徹底を 金融庁 監督指針改正へ、「最適」理由の説明求める 

https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=2&ba=1&ng=DGKKZO82410770Z20C24A7EE9000&scode=7388

非常に重要な論点であり、損害保険の乗合代理店においては真摯な対応が求められます。

独占禁止法に関しては、「独占禁止法上の規制のうち、保険募集においては、特に「不当な取引制限の禁止」および「不公正な取引方法の禁止」の観点に留意する必要があります。代理店(保険募集人)を通じてこれらの行為が行われていたと認められた場合、代理店(保険募集人)も独占禁止法違反を問われるおそれがあることから留意が必要です。」(10頁)としている点が重要で、特に代理店を介している場合は、企業内代理店の特殊な立ち位置の問題として有識者会議で大きな論点となりました。

そして、不当な取引制限の禁止として、保険契約の引き受けに際し、情報交換を原則禁止するように求めています。これは保険会社同士だけにとどまらず、保険代理店同士も対象となっている点は上記の視点が反映されたものと考えます。

保険契約の引受に際し、損害保険会社同士(代理店が間に入る場合も含む。)(以下「損害保険会社同士」)や代理店同士(同一の保険会社の代理店か否かを問わない。)(以下「代理店同士」)の接触または情報交換(以下「情報交換等」)は、原則として行ってはなりません。」(10頁)

これまでの商慣行を大きく変えるガイドラインであり、原則、例外としっかりと読み込んで対応していくことが求められます。

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