コラム
【速報⑤(パブコメ№81~99)】令和7年8月28日公表 「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について を読む

7 Ⅱ-4-2-12 部分③ (1)① 態勢整備(№81~№99)
Ⅱ-4-2-12 保険代理店等に対する便宜供与
(1)① 態勢整備
保険会社は、顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点から、保険代理店等に対する過度の便宜供与を防止するため、以下の措置を講じているか。
ア. 過度の便宜供与の判断基準に係る社内規則等の策定
イ. 上記ア.の社内規則等を踏まえた、営業部門等に対する適切な教育・管理・指導の実施及び便宜供与に係る意思決定や教育・管理・指導の実施に対するコンプライアンス部門等の適切な関与ウ. 保険代理店等に対して行っている便宜供与により、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていないかについて、リスクに応じた適切な頻度での内部監査及び保険代理店に対する監査の実施
エ. 上記ウ.の監査結果に関する、取締役会等への報告及び当該監査結果を踏まえた取締役会等における評価・対応の検討
オ. 顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていると認められる場合における、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備
(注3) 上記ア.~オ.の実施にあたっては、営業部門等からの不当な介入が排除されている必要があることに留意する。
具体的な回答がある部分と、考え方に関する回答があります。
(1)便宜供与の考え方について
№83
Q.「便宜供与」と正当な「契約上の取引」との境界を教えてほしい。例えば、代理店委託契約の条項において、保険代理店により有利な規定を設けることは便宜供与にはならないという理解でよいか。
A.保険会社が保険代理店等に対して行う便宜供与が、実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するものに該当するかは、Ⅱ-4-2-12(1)②の判断基準に基づき、個別具体的に判断される必要があると考えます。例示された代理店委託契約の条項において、保険代理店により有利な規定を設けることについては、その内容により過度の便宜供与となり得ることに留意が必要であると考えます。
「代理店委託契約の条項において、保険代理店により有利な規定を設けることについては、その内容により過度の便宜供与となり得ること」が明示されました。これは単なる契約上の取り決めだから債務の履行である、という主張では、便宜供与の検討は終わらないことを示していると解されます。そうすると、何をもって「より有利な規定」となるのかについては、違法か適法かの問題ではなく程度の問題でもあることから、法務部門やコンプライアンス部門において丁寧な検討が求められます。
(2)コンプライアンス部門等の関与の方法
№87
Q.Ⅱ-4-2-12(1)①イ.に「便宜供与に係る意思決定や教育・管理・指導の実施に対するコンプライアンス部門等の適切な関与」とあるが、必ずしも全ての代理店との取引等に関する意思決定を対象とするのではなく、自社で定めた社内規則における判断基準に基づき、過度の便宜供与に該当しうる一定の類型に関する意思決定を対象とすることも認められる、との理解でよいか。
また、意思決定の適切性を確認する方法として、必ずしも全ての代理店との取引等に関する意思決定時に確認する対応のみではなく、リスクに応じて事後的にコンプライアンス部門が意思決定に係る決裁書等を確認・検証する対応も認められる、との理解でよいか。A.「コンプライアンス部門等の適切な関与」について、全ての便宜供与に係る意思決定を対象とするのではなく、社内規則において頻度や数量等、顧客の適切な商品選択の機会の確保の観点から、リスクに応じた適切な基準を設定し、これに当てはまる一定の類型に関する意思決定を対象とすることも認められるものと考えます。
また、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するリスクが一定程度認められるものについては、意思決定時に確認をしつつ、このようなリスクが低いものについては、事後的に意思決定に係る決裁書等を確認するなど、リスクに応じた検証を行うことも認められるものと考えます。
コンプライアンス部門等の関与の方法が具体的に示されました。
「顧客の適切な商品選択の機会を阻害するリスクが一定程度認められるものについては、意思決定時に確認をしつつ、このようなリスクが低いものについては、事後的に意思決定に係る決裁書等を確認する」とされ、事前の意思決定時に確認をするものと、事後検証をするものの類型を社内規則で定めることが必要となりそうです。このリスクの評価方法は№89に回答があります。
(3)代理店監査・内部監査の方法等
№89
Q.Ⅱ-4-2-12(1)①ウ.のリスクの適切な評価方法としては、顧客から商品選択にかかる苦情の発生有無や発生件数などを基に、保険会社が顧客の適切な商品選択の機会が阻害されるという観点から分析し、保険会社が評価を行うことが一例として考えられるとの理解でよいか。また、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていないかにかかる保険代理店への監査として、今回の改正案Ⅱ-4-2-9 保険募集人の体制整備義務(6)のア.からオ.にある、代理店の規模や特性に応じた措置の実施状況と比較説明や推奨販売にかかる社内規則等に基づく実施状況に関し、監査するという理解でよいか。
A.リスクの適切な評価方法としては、自社が実施している個別の便宜供与について、顧客の適切な商品選択の機会を阻害する可能性を類型的に評価することのほか、御指摘のとおり、顧客から商品選択にかかる苦情の発生有無や発生件数などをもとに、分析・評価を行うことなどが考えられます。
また、保険代理店への監査の方法についても、個別具体的に検討される必要がありますが、御指摘のような方法に加え、特定の便宜供与を行った後において、自社の保険商品の取扱い件数が有意に変化していないかを確認するといった方法も有効な確認・検証方法の一つとして考えられます。
監査の方法について言及されています。
顧客から商品選択にかかる苦情の発生有無や発生件数のほか、代理店の規模や特性に応じた措置の実施状況と比較説明や推奨販売にかかる社内規則等に基づく実施状況と、特定の便宜供与を行った後において、自社の保険商品の取扱い件数が有意に変化していないかを確認することが、代理店監査の内容の例とされました。
この点に関連して、
- 「過度の便宜供与に該当しうる事象が判明した場合」は、「当該便宜供与の前後における乗合代理店における成約件数の推移を確認し、便宜供与の見返りとして当該乗合代理店が当該保険会社の保険商品を優先的に推奨し、顧客の適切な商品選択を阻害しているおそれがある有意な変化があるか否かを検証する方法」が有効であり、成約件数に有意の変化が生じていない場合であっても、「確認・検証にあたっては、当該便宜供与によって生じ得る一時点の影響のみではなく、中長期的な視点で確認するほか、当該便宜供与を実施するに至った経緯をあわせて確認・検証する方法」も有効とされています(№91)。
- 「手数料が低い少額商品」であっても、「手数料の多寡に関わらず、保険代理店等に対して行っている便宜供与により、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていないかを判断・検証する必要がある」とされ、内部監査・検証の省略は認められませんでした(№92)
- 監査結果の取締役会等への報告の仕方について、「個別具体的に検討される必要があるものの、例えば、全体の監査結果の概要を報告するとともに、過度の便宜供与に係る問題が発見された保険代理店について個別の監査結果を報告するなどの方法も認められるものと考えます。」とされました(№95)
(4)(注3)について
「(注3) 上記ア.~オ.の実施にあたっては、営業部門等からの不当な介入が排除されている必要があることに留意する。 」について、以下の考え方が示されました。
- 「営業部門等」が示す範囲は、代理店を担当する営業担当者および当該担当者が属する営業部門に限らず、営業に係る管理部門、企画部門、担当役員等、営業活動に係る意思決定に影響し得る関係者および組織を意図している(№97)
- 「営業部門等からの不当な介入」とは、営業部店等が、直接・間接とを問わず、営業成績・利益の確保を目的として、ア.~オ.の措置の実効性を阻害する行為を指すものと考えます。したがって、例えば、このような行為に該当しない場合においては、社内規則等の策定等を含む各項目の実施にあたり、営業部門等が関与すること自体が直ちに問題となるものではない(№99)
▼【速報⑥】令和7年8月28日公表 「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について を読む
https://hkn.jp/column/48
執筆者プロフィール

- 株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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