コラム
【速報】2026年保険モニタリングレポートを読む⑤

今回は、「2026年 保険モニタリングレポート」(2026年8月)Ⅳ.4.「乗合代理店向け保険商品の販売手数料等に関するモニタリング」(38〜41頁)を取り上げます。

2026年保険モニタリングレポート38p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf
1.この節の位置づけ
この論点の起点は、2024年12月25日公表の金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書です。
同報告書は、募集手数料の多寡が比較推奨販売にどう影響するか、募集手数料の開示が顧客の合理的な意思決定にどの程度資するかについては様々な意見があるとしたうえで、乗合代理店における比較推奨販売の実態のモニタリングを深化させ、これと保険会社の収益コスト構造との関連についての理解を深める必要があるとしました。そのうえで、不適切な比較推奨販売の実態が認められた場合、または開示が有効との結論が得られた場合には、募集手数料の開示を求めることも考えられる、としています(38頁引用囲み)。
本節は、この提言を受けたモニタリングの初年度の報告に当たります。
2.何がモニタリングされたのか
素材はいずれも医療保険(無解約返戻金型)です。
(1)初年度手数料水準と販売量(参考30、39頁)
2019〜2024年度について、初年度代理店手数料÷新契約年換算保険料(=初年度手数料水準)を横軸、販売量を縦軸にプロットしたものです。レポートは、水準を高くすれば販売量が多くなるという関係性が類推されるとしています。もっとも、加重平均でみた水準は2022年度以降ほぼ横ばいで、頭打ち感も指摘されています。

(2)支払タイプ別の代理店件数(参考32、40頁)
2024年度、一保険会社あたり20代理店程度の回答をもとに集計されたものです。
| 支払タイプ | 件数 |
|---|---|
| 5年L字 | 183件 |
| 10年L字 | 29件 |
| 10年フラット | 1件 |
レポートの評価は、乗合代理店においては初年度手数料水準が高くなる支払タイプを選好する傾向がある、というものです。前提として、支払タイプは保険会社が複数用意し、乗合代理店の側が選択できるものとされています(注72)。
(3)支払タイプ別の解約率(累積)推定値(参考33、41頁)
13月目・25月目の継続率から逆算した推定値です。A社〜F社のすべてにおいて、5年L字タイプの方が解約率(累積)が高く、フラットタイプの方が低いという結果が示されています。
(4)モニタリング範囲の拡大
2024事務年度の対象は主として金融機関代理店チャネルであり、そこでは主力商品(積立利率更改終身保険等)について5年L字から10年L字へ移行する動きが確認されていました(39頁)。2025事務年度は、これを一般乗合代理店チャネルにも拡大しています。
3.「5年」と保険法上の除斥期間
レポートは5年L字・10年L字・10年フラットという類型を所与のものとして扱い、年限の由来には立ち入っていません。この点について、保険法の規定との対応関係が一つの切り口と考えます。
医療保険は、定額給付型であれば保険法第4章の傷害疾病定額保険契約に当たります。告知義務違反による解除の規定は次のとおりです。
保険法第84条(告知義務違反による解除) 1 保険者は、保険契約者又は被保険者が、告知事項について、故意又は重大な過失により事実の告知をしなかったとき又は不実の告知をしたときは、傷害疾病定額保険契約を解除することができる。 (2項・3項略) 4 第一項の規定による解除権は、保険者が同項の規定による解除の原因があることを知った時から一箇月間行使しないときは、消滅する。当該傷害疾病定額保険契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
同項は、①保険者が解除原因を知った時から1か月、②契約締結時から5年という二つの除斥期間を定めています。同旨の規定は、生命保険契約について第55条第4項、損害保険契約について第28条第4項に置かれています。実損補償型の医療保険であれば傷害疾病損害保険として損害保険の規定が適用されますが、いずれの類型でも契約締結時から5年という点は共通です。
実務上、約款では、保険者の責任開始日から2年以内に、告知義務違反に係る事実に基づく保険事故又は保険給付事由が生じなかった場合には、保険者は保険契約を解除できない旨を定める例が一般的です。この約款上の定めは、保険法上の除斥期間を「契約締結時から5年」から「責任開始日から2年」に短縮するものではなく、法定の解除権消滅事由とは別に、約款上の解除権消滅事由を追加するものと解されています。
他方、参考31の注記は、保険契約が早期に解約された場合に、アップフロントで支払われた代理店手数料を保険会社に戻入する仕組みがあることに触れています。戻入の実効性は、未払の継続手数料が残存しているか、すなわち相殺の原資があるかに左右されます。継続手数料が残っていれば相殺により回収できますが、支払をおえていれば代理店からの別途回収が必要となります。
レポート本文では以下の記載が関連すると考えられます。
販売手数料フラット化(支払タイプの変更によるものを含む)に伴う初年度代理店手数料の減額を行った場合、(理論上)契約初期費用や解約控除も併せて引き下げることが可能であるほか、乗合代理店における適切な比較推奨販売や契約締結後のアフターフォロー74にも影響を与えうると考えられる。一方で、新契約獲得における役務に対する対価との関係や保険代理店の財務構造も含めて、さらに多面的に分析する必要があると考えられる。こうしたことから、乗合代理店における比較推奨販売やアフターフォローに係る業務負荷の実態のほか、支払タイプの違いによる販売の動向等についてさらなる分析を行い、「代理店手数料と比較推奨販売の関係性」について、引き続きモニタリングを継続していく。
脚注74 契約内容の定期確認や保険金・給付金の請求サポート等。継続手数料はその原資となる。
2026年保険モニタリングレポート40p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf
以上を並べますと、支払スパンの設計は、募集インセンティブの設計という側面のほかに、契約の成立過程に瑕疵があった場合の回収可能性の確保という側面をも有することになります。保険法が保険者に解除権の行使を認める期間が契約締結時から5年であることと、5年L字という類型が最も多く選択されていることとの間に対応関係を見る余地はあるように思われます。
なお、本アンケートが継続率を13月目(≒1年)・25月目(≒2年)で取得している点(注76)は、約款の2年の期間と符合しています。
4.問題意識と今後のモニタリング
支払タイプ、とりわけL字型の手数料の支払方に当局の関心が向けられています。問題意識は、次の二点に整理できます。
第一に、初年度手数料水準の高低が比較推奨販売に影響していないか、という点です。参考30の示す販売量との関係と、参考32の示す代理店側の選好傾向とが、この論点の内容です。
第二に、アフターフォローとの関係です。注74は、契約内容の定期確認や保険金・給付金の請求サポート等について、継続手数料がその原資となる、としています。継続手数料の水準が低い支払タイプでは、その原資が相対的に薄いことになります。参考33の解約率の差も、この文脈で参照されているものと解されます。
ただし、参考33について因果関係を断定することはできません。支払タイプの相違が解約率に影響しているのか、乗換販売の傾向を有する代理店が特定の支払タイプを選好しているのかは、当該データからは判別できないためです。レポート自身、販売の傾向には新(競合)商品の販売時期や保険代理店における推奨の実態等、様々な要素が絡むとして、断定を避けています(38頁)。
そのうえで、レポートは同趣旨の記述を3か所に置いています。
- 販売の傾向については様々な要素が絡むため、さらなる分析を行い、「代理店手数料と比較推奨販売の関係性」について、引き続きモニタリングを継続していく(38頁)
- 乗合代理店における比較推奨販売やアフターフォローに係る業務負荷の実態のほか、支払タイプの違いによる販売の動向等についてさらなる分析を行い、「代理店手数料と比較推奨販売の関係性」について、引き続きモニタリングを継続していく(40頁)
- 2025事務年度においては医療保険に係る大局的な分析から開始したが、2026事務年度においても引き続き当アンケートの分析を深めていく(41頁)
40頁では、新契約獲得における役務に対する対価との関係や保険代理店の財務構造も含めて、さらに多面的に分析する必要があるとされています。2026事務年度の分析対象がここから広がる可能性がある点は、留意しておく必要があります。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 専門役員グループCPAO
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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