コラム

2026年7月23日
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令和8年6月「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を読む

 

金融庁が令和8年6月「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を公表しました。

日本損害保険協会と生命保険協会との論点には、サイバーセキュリティ、金融犯罪対策、AI、金融戦略など、多くの共通項目が並んでいます。

 

損保向け資料の第1項は「企業のリスクマネジメントの高度化」です。

https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

 

一方、生保向け資料の第1項は「不適切事案への対応」であり、その後に保険代理店の募集品質が取り上げられています。

 

https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/04.pdf

 

「仲介者」が企業価値の向上を担う

企業のリスクマネジメントについて、損保・生保の両資料には、ほぼ同じ文章が掲載されています。

「企業のリスクマネジメントの高度化は、企業の事業継続力の向上やキャッシュフローの安定化を通じて、企業価値の向上や成長投資の促進に資するものである。その実現に向けては、企業、保険業界、仲介者、政府といった関係者がそれぞれの役割を果たしつつ、相互に連携していくことが重要である。」

(日本損害保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

保険代理店にとって、ここで最も重要なのは「仲介者」が明記されている点である。

企業のリスクマネジメントは、企業と保険会社だけで完結するものではなく、顧客企業の事業内容を理解し、その企業が抱えるリスクを保険会社や専門家につなぐ仲介者にも、明確な役割があるとされています。

また、リスクマネジメントの目的が「保険事故への備え」だけでなく、「事業継続力の向上」「キャッシュフローの安定化」「企業価値の向上」「成長投資の促進」と結び付けられています。

代理店が顧客企業に確認すべきことは、現在加入している保険の状況だけでなく、将来重大な事故や災害が発生した際に、どの事業が停止するのか、復旧までにどの程度の時間が必要なのか、その間の固定費や資金繰りにどのような影響が生じるのか、といった精緻なリスク評価になってくるでしょう。

損保に求められるのは「計画の初期段階」からの関与

企業のリスクマネジメントにおける損害保険業界の役割について、踏み込んで示されています。

「企業のリスクマネジメントの高度化に向けて、損害保険業界においては、精緻なリスク評価やそれを踏まえた適切な引受判断が一層求められている。また、企業の事業内容やプロジェクトの特性を踏まえ、計画の初期段階から対話を行い、必要なリスク移転が円滑に行われるよう支援していくことも重要である。くわえて、損害保険業界が有する知見やノウハウを幅広く提供するなど、企業のリスクマネジメントの高度化に向けた支援策の検討が期待されている。」

(日本損害保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

「精緻なリスク評価」「適切な引受判断」「計画の初期段階からの対話」「必要なリスク移転」「知見やノウハウの提供」という一連の流れが示されており、特に重要なのは、「計画の初期段階から対話を行い」とされていることです。

工場の建設、新規事業への参入、海外展開、新しい製品・サービスの開発などについて、事業が開始され、保険加入が必要になってから代理店が呼ばれるのではなく、事業計画の段階でリスクを把握し、事故防止策、契約条件、保険金額、免責、引受可能性などを含めた検討が期待されます。

したがって、損保代理店には、満期更改の時期に前年契約を確認することだけでなく、顧客企業の事業計画や設備投資、取引先、サプライチェーンなどの変化を継続的に把握し、必要な段階で保険会社との対話を開始する役割が期待されます。

さらに、

「金融庁としては、海外直接付保やキャプティブの利活用を含め、企業のリスクマネジメントやリスクファイナンスに関する選択肢を広げるための環境整備に取り組んでいく考えである。」

(日本損害保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

とされました。これは、企業のリスク対応が、国内の一般的な保険商品への加入だけでは完結しないことを示しています。

すべての代理店が海外直接付保やキャプティブを設計する必要があるという意味ではないでしょうが、通常の国内保険会社の保険契約だけでは対応が難しいリスクが存在することを認識し、必要に応じて保険会社、ブローカー、専門家などにつなぐことは、重要な役割として期待されます。

損保代理店の価値は、商品数の多さではなく、顧客のリスクに応じて適切な対話の相手と選択肢を用意できるかどうかで測られる方向に向き始めています。

生保における「信頼関係の悪用」というリスク

生保向け資料では、企業のリスクマネジメントよりも先に、不適切事案への対応が取り上げられています。

「一部の生命保険会社において、営業社員又は元社員が、生命保険会社の営業活動を通じて形成された顧客との信頼関係を悪用し、金銭を不正に詐取する等の極めて悪質な事案が多数確認されている。」

(生命保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/04.pdf

金融庁は、その対応を次のように経営課題として位置付けています。

「各保険会社の経営陣においては、自社のコンプライアンス・リスクを管理することはまさに経営の根幹をなすものであることを改めて認識いただき、内部管理態勢の高度化を行うとともに、社員に対して、経営陣自らの言葉でその重要性を示し、しっかりと認識共有することで、その企業の文化・風土となるように取り組んでいただきたい。」(生命保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/04.pdf

 

ここで求められているのは、規程を増やすことだけではなく「経営陣自らの言葉」で重要性を示し、それを「企業の文化・風土」とすることまで踏み込んでいる点が注目されます。

生保代理店では、管理者の「管理業務の比率」まで問題になる

生保代理店へのヒアリングでは、抽象的な態勢整備ではなく、営業拠点単位の管理や比較推奨販売の業務フローが取り上げられている。

「例えば、営業拠点ごとに業務品質を定量化し、マネジメントの改善につなげようとする取組など、自社の規模・特性に応じた工夫が見られた一方で、プレイングマネージャーである営業拠点長の募集人管理業務の比率の見直しや、適切な比較推奨販売の確保に向けた業務フローの見直しなどについて課題認識が示され、対話を実施した。」(生命保険協会向け資料、p.1)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/04.pdf

 

この記述で注目すべきなのは、「プレイングマネージャーである営業拠点長の募集人管理業務の比率」です。

管理者を任命していることだけでは、管理態勢が整備されているとは認定できず、管理者自身に大きな営業目標が課され、ほとんどの時間を自身の募集活動に使っているのであれば、募集人の面談記録、意向把握、比較推奨理由、苦情、契約後の対応などを確認する時間が不足します。

「管理者がいるか」だけではなく、「管理者が実際に管理業務を行える職務設計になっているか」が重要です。

また、「適切な比較推奨販売の確保に向けた業務フローの見直し」が挙げられていることから、募集人個人の説明能力だけでなく、取扱商品の選定、推奨方針、顧客意向との照合、推奨理由の記録、管理者による確認までを、一つの業務プロセスとして設計する必要があるでしょう。

共通するのは「代理店だけに責任を負わせない」という考え方

生保向け資料では、代理店の募集品質について、保険会社側の責任も明記されています。

「保険代理店において募集品質が確保された確実な業務運営が行われることは、業界全体にとって非常に重要であり、その実効性を確保するためには、各生命保険会社においても、しっかりと教育・管理・指導を行っていただきたい。金融庁としても、保険代理店の取組状況のみならず保険会社と保険代理店との適切な関係性の構築に向けた取組について、引き続きしっかりとフォローしてまいりたい。」

(生命保険協会向け資料、pp.1―2)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/04.pdf

重要なのは、金融庁が代理店の取組状況だけでなく、「保険会社と保険代理店との適切な関係性の構築」もフォローするとしていることです。

保険会社には、代理店が実際に適切な募集を行えるよう、教育・管理・指導を行う責任があります。

損保では、保険会社による要求が過度になった場合の問題も明確に指摘されている。

「『代理店業務品質評価制度』は、損害保険会社と保険代理店が対話を繰り返し、保険代理店の規模や業務特性に応じた管理態勢の構築を進めていくものと承知しており、こうした丁寧な対話プロセスを経ずに、委託解除ありきのような対応を行うことは、本制度への信頼を損なうおそれもある。」

(日本損害保険協会向け資料、p.2)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

さらに、

「顧客本位の業務運営の実現に当たっては、損害保険会社と保険代理店が信頼関係を醸成し二人三脚で業務品質向上に取り組むことが重要であり、各損害保険会社においては、本制度の運営のみならず、代理店手数料ポイント等、様々な保険代理店の業務品質向上に係る取組において、引き続き代理店との丁寧な対話に努めていただきたい。」

(日本損害保険協会向け資料、p.2)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

代理店の業務品質に問題があれば代理店だけの責任とし、保険会社は委託契約を解除すれば済む、という関係ではないことが確認されています。

代理店手数料ポイントを含め、業務品質に関する評価制度そのものが、代理店との丁寧な対話を伴って運用される必要があります。

 

損保特有の課題は「便宜供与」と「必要な指導」の混同

損保向け資料では、「過度の便宜供与の防止」が、代理店に必要な教育や情報提供まで阻害している問題が記載されている。

「準備状況については相応の進捗が見られた一方で、特に 2025 年8月に監督指針で適用された『過度の便宜供与の防止』に関し、各損害保険会社において過度の便宜供与に該当するとの理由により、保険代理店に対する必要な教育や情報提供が十分に行われておらず、その結果、顧客対応に支障が生じている場合もあるとの声が多数聞かれた。」(日本損害保険協会向け資料、p.2)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

法令や監督指針への対応を厳格化するあまり、保険会社が必要な教育や商品・事故対応に関する情報まで提供しなくなれば、最終的に不利益を受けるのは顧客となってしまうおそれがあります。

日本損害保険協会のガイドライン改訂について、次のように記載されている。

「2026 年4月1日、日本損害保険協会が公表している『損害保険会社による便宜供与適正化ガイドライン』が改訂され、『過度の便宜供与の防止と、保険代理店の日常的な教育・管理・指導との区別を明確化し、判断・検証する必要』について追記されている。」

(日本損害保険協会向け資料、p.2)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202606/05.pdf

重要なのは、何が顧客対応に必要な教育・管理・指導であり、何が代理店に対する不適切な利益供与なのかを区別し、その判断過程を保険会社と代理店の双方が説明できるようにすることです。

 

その他、サイバーセキュリティの強化、AIディスカッションペーパーの公表、金融戦略の検討状況など、今後の金融行政を見据えて読んでおくべき事項が多く、ぜひ読み比べていただければと思います。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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