コラム

2026年7月14日
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ITC Asia 2026現地レポート③;新しいリスクを引き受ける力

「Cyber & Specialty Lines: Building Profitable Books in New Risk」では、サイバー、暗号資産、パラメトリック保険など、新しいリスクをどう引き受け、収益性あるポートフォリオに育てるかが議論されました。

Chairperson;Alexander Liu (MSIG Asia)
Speakers;Bo Yu (Markel International); Sam Suen (Lockton); Marie-Francine Richard (Cryp-Sure)

サイバー攻撃、暗号資産、AI、気候変動に関連するリスクは、いずれも変化が速く、過去データも十分に蓄積されていません。

そこで問われていたのは、データが薄い中で、保険会社が何を根拠にリスクを理解し、価格をつけるのかという議論です。

BlackpandaのNawaz Imam氏は、自社の立ち位置を端的にこう表現しました。

「私たちは自分たちを、デジタルの消防士のような存在だと考えています。」

――Nawaz Imam氏(Blackpanda)

Blackpandaは、サイバーインシデント対応とサイバーMGAの機能を併せ持つ企業です。

サイバー攻撃が起きた現場に入り、実際の攻撃ベクトルや被害の広がりを見ていることが、引受にも生きています。Nawaz氏は、その強みを次のように語っています。

「私たちは『内側から外側を見るデータ』を持っています。」

――Nawaz Imam氏(Blackpanda)

外部から観測できるセキュリティ態勢に加えて、実際の侵害現場から得られる情報を持つ。その情報が、サイバーリスクの価格付けやポートフォリオ管理に反映されていく。ここには、サイバー保険の収益性を考えるうえで重要な示唆があります。リスクが速く変わる領域では、静的な審査や過去データへの依存だけで精度を保つことが難しくなります。現場で何が起きているかを継続的に取り込み、引受に戻す仕組みが必要になります。

MarkelのBo Yu氏は、新興リスクを引き受ける際の出発点について、非常に基本的な問いを提示しました。

「私たちが最初に自問するのは、『私たちは本当にそのリスクを理解しているのか』ということです。」

――Bo Yu氏(Markel)

データが少ない領域ほど、技術的専門性が重要になります。Bo氏は、1930年当時に蒸気ボイラーを引き受けた創業期の例を挙げ、リスクを理解していたからこそ引受が可能になったと説明しました。新興リスクに向き合うときも、現場の技術者と話し、リスクの構造を理解し、保険金支払いチームやアクチュアリーとともに多面的に検討する姿勢が欠かせません。

暗号資産領域を扱うMarie-Francine Richard氏は、インシデント発生後の情報をどれだけ早く次の判断へ戻せるかを基準に、仕組みを設計していると述べました。

「私たちは引受システムと保険金支払いシステムをサイロ化しないことに決めました。」

――Marie-Francine Richard氏(Cryp-Sure)

同じプラットフォーム上で引受と保険金支払いをつなぎ、リアルタイムで情報を処理し、リスクを継続するのか、再価格付けするのかを判断する。

さらに、監査できる状態を保ち、規制当局に必要なものを提出できるようにしている点も語られました。

暗号資産やサイバーのように消費者保護や規制対応が重要な領域では、スピードとガバナンスを同時に設計する必要があります。

この議論は、日本の保険業界にとっても示唆的です。

サイバー、暗号資産、AI、再生可能エネルギー、気候リスクなどの新興リスクでは、いずれも引受、保険金支払い、インシデント対応、法務・コンプライアンス、外部専門家が、早い段階から同じ情報を見ながら判断する体制が求められるようになります。

Bo氏は、保険金支払い担当者を引受担当者と同じテーブルにつかせることを、成功の秘訣の一つと述べました。

保険金支払い部門は、損害がどのように発生し、約款上のどこに曖昧さがあり、どのようなトレンドが起きているかを知っています。

その情報を更新時期まで待たずに引受へ戻すことが、収益性を高めるうえで重要になります。

サイバー&スペシャルティ領域で収益性を築く力は、データの量だけではなく、実際に事故現場に入り、リスクを理解し、保険金支払いの知見を引受に戻し、規制にも耐えられる形で仕組み化する力。

そこに、新興リスク時代の保険会社の競争力が現れると思います。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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