コラム
保険制度ワーキング・グループは何を議論するのか ― 再保険キャプティブ制度の創設をめぐる論点整理

2026年(令和8年)8月31日、第57回金融審議会総会・第45回金融分科会合同会合において、片山さつき金融担当大臣から金融庁設置法7条1項1号に基づく諮問がなされました。
2件のうち保険に関わるのが「保険制度の在り方に関する検討」で、諮問文は、企業や家計をとりまく不確実性の高まりを踏まえ、企業の成長投資を後押しするとともに国民生活の安全安心を確保するための保険機能を強化する観点から、再保険キャプティブ制度の創設と生命保険のセーフティネット制度の在り方について検討を行うこと、としています。

これを受ける保険制度ワーキング・グループ(仮称)の設置が了承され、座長には同志社大学の洲崎博史教授が就くこととされました。
委員からWG設置への反対はなく、議論は「やるかどうか」ではなく「どう設計するか」の段階に入っています。

1 制度の現状 ―― どこが「重い」のか
現状、国内には再保険キャプティブ制度が整備されておらず、国内で同一の企業グループのリスクのみを引き受ける再保険キャプティブ業務を行うためには、保険会社の免許の取得が必要です。しかしこの免許取得は業務の特性に照らして負担が重く、相当数の国内企業グループが米国ハワイ州等の国外に子会社を設立して同業務を行っている――というのが出発点になります。
資料2に示されたスキーム図が、制度設計を考えるうえで示唆的です。企業グループはまず元受損害保険会社と保険契約を締結し、元受損保が保険料の算定等を行う。元受損保は保険責任の一部を国外の再保険キャプティブに出再し、その際に自らの算定結果等を活用する。保険事故発生時の損害サービス(損害査定・保険金支払い等)は元受損保が企業グループに提供する。そして企業グループは自らのリスク情報を集約・分析することにより、キャプティブでの自家保有か再々保険として出再するかを判断し、キャプティブは保険会社の一種であるため再保険マーケットへの直接の出再が可能となります。

2 総会で示された論点
委員発言を整理すると、論点は3層に分かれます。
① なぜこれまで実現しなかったのか
複数の委員が同じ問いを立てた点が印象的でした。キャプティブ導入の議論はこれまでにも繰り返され、そのつど実現しなかった経緯があります。なぜ実現しなかったのかを明確にしたうえで議論を進めるべきだ、という指摘が重ねて示されました。過去の障害が何であり、それを今回クリアできる根拠は何か。ここを詰めないまま制度だけ作っても、企業は引き続き国外を選ぶことになりかねません。
WGの初期回で、この「不成立の歴史」の検証と、監督・税務当局を含む関係者からのヒアリングが置かれる可能性は高いと見ています。
②キャプティブ自体の健全性をどう確保するか
まず、再保険キャプティブを行える企業のリスクマネジメント能力をどう測るのか、という論点が提示されました。ここが甘いと企業側に不必要なリスクが残り、それが破綻原因にもなりうるという指摘です。裏返せば、キャプティブを持てる企業に何を求めるのかという要件論になります。
また、本体企業の信用力に依存する面はあるとしても、キャプティブ会社自体の健全性をどう確認していくかも課題として挙がりました。保険会社免許より軽い枠組みを作るとして、では資本要件、責任準備金、ソルベンシー、報告徴求をどの水準に設定するのか。
さらに、制度創設が安易な設立・活用を促すことにならないよう、企業が適切なリスク管理を行っているかを確認する仕組みの検討を求める意見も示されました。
③ 税務・ガバナンス・元受との関係
実務論として最も具体的だった発言を整理すると、次のとおりです。
– 自家保有するリスクと外部に移転するリスクの切り分け設計。
– キャプティブ側でリスクを過大に保有してしまう懸念
– 再保険の採算性と規模の設定
– 保険料水準の設定(市場価格が存在しないため難しい)
– タックスヘイブンの利用と国際課税の潮流との整合性
– 元受保険会社とのコンフリクトの処理
– 流動性――元受会社から資金が入るタイミングと自社で損失を負担するタイミングのタイムラグをどうカバーするか
このうち元受とのコンフリクトは、前掲のスキーム図に照らすと具体性を持ちます。
元受損保は料率算定と損害サービスを担いながら、保険責任の相当部分をキャプティブに出再する。
企業グループ側のリスク情報集約が進めば、料率算定の主導権が企業グループ側に移動していく可能性もあります。
国内制度が整備されれば、企業向け損保のビジネスモデルそのものに影響が及びます。
また、キャプティブは「かつての引当金に似た発想」であり、保険料拠出の配分や配当への影響を通じてコーポレートガバナンスにも影響しうるとの指摘も出ています。
租税・配当・開示に波及する論点として意識しておく必要があります。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 専門役員グループCPAO
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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