コラム

2026年8月18日
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【速報】2026年保険モニタリングレポートを読む⑥

金融庁「2026年 保険モニタリングレポート」(2026年8月6日公表)から、企業向け保険をめぐる記述を取り上げます。

  1. 損害保険会社は、企業向け保険の引受方針を厳しくしつつあります(Ⅱ.2.(1)、12〜15頁)
  2. それを受けて、企業側にリスクマネジメントの高度化を求める政策が動いています(Ⅶ、52〜54頁)
  3. その受け皿として、保険仲立人の活用促進とキャプティブの制度面が動いています(Ⅴ、Ⅶ)

1.引受方針の転換(12〜15頁)

(1)なぜ変わるのか

日本の損害保険業界は、業界画一の保険料率体系の下、収入保険料が多いほど利益拡大につながりやすい構造にありました。そのため企業向け保険では、顧客企業との関係を重視し、厳格な引受条件の設定等を控える傾向にあった、とされています(12頁)。変化の理由として挙げられているのは、自然災害の頻発・激甚化や大規模事故の増加により再保険会社の要求が厳格化していること、および保険料調整行為事案等を契機に従来の取引慣行の課題が顕在化したことです(同頁)。

(2)何が変わるのか

従来の日本独自の慣行とグローバル・スタンダードの対比です(参考7、本文12〜13頁)。

2026年保険モニタリングレポート12~13p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf

※ U/W(アンダーライティング)とは、引受の可否、補償内容・金額、保険料率を決めることを指します(12頁の定義)。

特にこの「保険会社のスタンス」については指摘が繰り返されているところでもあり、今後グローバルスタンダードに向けて大きく変わっていくことが予想されています。

引受強化の中身は3つです(参考8、13頁)。

 強化策

 主な対応

 ①収益性の確保

 保険料率の引上げ

 ②ボラティリティの安定化 

 引受金額の引下げ

 ③リスクシェア

 免責金額や縮小てん補率の設定 

企業から見れば、保険料は上がり、引き受けてもらえる金額は下がり、自己負担部分は増える、という3つが同時に進みます。高リスク企業や大規模工場を有する企業では、従来と同条件での保険調達が円滑に進まないケースが増えている、とされています(14頁)。レポートはこの見直しを、再保険市場という国際的な共通インフラを活用するために不可欠かつ不可逆な構造変化と位置づけています(14頁)。

企業向け保険市場における U/W 方針の見直しは、再保険市場という国際的な損害保険の共通インフラを活用するために不可欠かつ不可逆な構造変化と考えられる。こうした環境下では、顧客企業が特定の損害保険会社への依存から脱却し、自社のリスク特性を把握した上で、保険手配を含むリスクマネジメント能力を高めることが重要となる。

2026年保険モニタリングレポート14p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf

(3)海外の(再)保険会社の見方

参考10(14頁)に、外資系損害保険会社・再保険会社から寄せられた意見が2点紹介されています。

2026年保険モニタリングレポート14p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf

なお、これらはあくまで外資系損害保険会社・再保険会社から寄せられた意見として掲載されているものであり、金融庁自身の評価として示されたものではありません。

2.検討会における議論(52〜54頁)

金融庁と経済産業省は2025年12月に「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会」を設置し、計3回の会合を経て、2026年4月17日に報告書を公表しています(53頁)。

検討会でも、日本市場では従来の取引慣行や市場構造を背景として、必ずしもリスク実態に即したU/Wが十分に機能してこなかった面があるとの指摘がなされています。料率水準がリスク対比で必ずしも十分でなかったこと、一社引受や固定的な引受シェアといった慣行によりリスクに応じた契約条件の調整が行われにくい構造があったこと、が整理されています(52〜53頁)。1.と同じ認識です。

企業側に求められるのは、自社のリスクを自分で把握し、それを保険会社に説明できるようにすることです。事業内容、資産構成、立地条件、サプライチェーン、リスク低減策等を踏まえた全社的なリスク評価を行い、その結果を共有することが精緻な引受判断の前提になるとされ、適切に情報共有が行われれば、引受条件の厳格化ではなく、適切な補償内容や引受条件の設定が可能となるとされています(53頁)。

グロ-バルな保険・再保険市場との比較を通じて、日本独自のビジネス慣行から脱却し、グローバル・スタンダードを踏まえた運営へ移行していく必要性が強調された。具体的には、詳細なリスク情報の開示を前提としたU/Wや、引受能力に応じたシェア参入に加え、企業側においても保険会社のニーズを踏まえつつ、自社のリスク特性やリスク管理の取組を適切に説明していくことが一般的であるとの認識が共有された。こうした点を踏まえ、日本市場においてもこれらの考え方に基づく市場運営への移行の必要性が指摘された。

2026年保険モニタリングレポート53p https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260806/02.pdf

1.(3)で見た「日本企業から出てくる情報では引受判断ができない」という指摘と、企業側に情報開示を求めるこの整理は、ここでつながってきています。

3.制度面で検討されている事項

(1)保険仲立人の活用促進

2025事務年度に行われた措置は次のとおりです。

 措置

 内容

 本文の出典

 媒介手数料の受領先の拡大

 従来は保険会社のみから受領することとされていた媒介手数料について、保険契約者からも受領できるよう見直し

 44頁(2025年8月28日適用開始の監督指針改正)

 保証金の引下げ

 保険仲立人の保証金の最低金額等の引下げ

 44〜45頁(改正施行令、2025年12月19日公布)

 海外直接付保

 海外直接付保に関する許可申請手続において、保険仲立人の意見書の添付を可能とする

 45頁(改正施行規則、2026年3月30日公布)

 代理店との協業解禁

 業務分担の明確化と、保険契約者及び保険会社からの同意取得を前提に、保険仲立人等と保険募集人(保険代理店)等による同一契約の共同取扱いを容認

 48頁(改正監督指針)

 不祥事件の届出

 上記と併せ、当局のモニタリング強化のため、保険仲立人による不祥事件の届出を義務化

 48頁

このうち実務への影響が大きいのは、媒介手数料を保険契約者から受領できるようになった点と、代理店との共同取扱いが認められた点の2つです。前者は仲立人の報酬構造そのものに関わり、後者は、仲立人単独では受けきれない案件を代理店と組んで取り扱うという選択肢を制度上開いたことになります。

(2)キャプティブ

政府側の対応として明記されているのは次の3点です(54頁)。

  • 保険仲立人の活性化に向けた制度的対応
  • 海外直接付保の運用面の改善
  • キャプティブの利活用に向けた政策の検討

現状の数字も出ています。損害保険会社42社の出再先上位5社を調査した結果、日本企業のキャプティブ再保険会社は7社と計上されています(参考14、17頁)。母数(合計210社)から見れば小さい数字ですが、モニタリングレポート本体にキャプティブが政策検討事項として書かれた点は記録しておく価値があります。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 専門役員グループCPAO
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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