コラム

2025年2月21日
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【保険業法改正の羅針盤⑥】比較推奨販売(特にいわゆるハ方式)の現在地②

3.いわゆるハ方式

比較推奨販売について、「その販売方法に応じた説明を行うことが義務付けられている」とあるとおり、3つの方法があります。

今回の保険業法改正で話題になっている、いわゆるハ方式というのは、根拠となる規程が「施行規則第227条の2第3項第4号ハ」に当たるためであり、代理店独自の推奨理由・基準に沿って商品を選別し、商品を推奨する場合をいいます。

金融審議会WGにおいて、「保険業法施行規則第 227 条の2第3項第4号及び監督指針II-4-2-9(5)において、乗合代理店が、①比較説明を行う場合には、当該比較に係る事項を、②顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨する場合には、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要及び当該提案の理由を、③商品特性や保険料水準などの客観的な基準や理由等に基づくことなく、商品を絞込み又は特定の商品を顧客に提示・推奨する場合には、当該提案の理由を、それぞれ説明することが求められている。」(WG報告書脚注11)と整理された③がいわゆるハ方式です。

このハ方式は、「代理店の経営方針に基づくこと」が示されていれば、規制が求める最低限のレベルは充たす、ということとされ、当初からそのあり方についてかなり議論がなされており、その決着点として、「立場表示機能」からの説明がなされました。

 すなわち、法の求める「理由説明の目的・趣旨」は、「自分は、『顧客の意向に沿った保険契約を選別』する者ではない」という、保険募集人の立場を表示する機能にあるものと考え、上記「代理店の経営方針に基づくこと」という程度の説明でも当該目的は十分達せられるものと整理されました。

そして、金融審議会WGにおいても「こうした中、現行の保険業法令においては、乗合代理店が保険会社からの便宜供与等の見返りとして、顧客に対して特定の保険会社の商品を優先的に推奨していたとしても、顧客に対してその理由を適切に説明していたとするならば、直ちに法令違反とはならない。」(WG報告書7p)との確認がなされました。

しかしながら、改正金サ法が施行された現時点においては、顧客の最善の利益を追求する義務がより重要になり、単なる募集人の立場の表示にとどまらない、本質的かつ実質的な顧客本位の議論がなされています。

たとえば、金融審議会WGにおいて以下のようにハ方式はその存在自体が議論の対象になりました。

第4回WG議事録

【大村委員】

次に、推奨販売の適正化に移らせていただきます。こちらにつきましては、当局資料にも書かれておりますが、金融サービス法の施行によって広く金融事業者一般に、顧客の最善の利益を勘案して誠実公正に業務を遂行するという義務が法律上の義務として課せられるようになっておりますので、現在、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハ、いわゆるハ方式で認められているような代理店都合の絞り込みを認めるということは、当該規定と真っ向からぶつかる可能性があるものと考えております。したがって、ハ方式は廃止し、顧客の意向に基づく選別のみを認めるロ方式を徹底するというスタンスについて違和感はございません。

【嶋寺委員】

長くなりましたが、もう1点、比較推奨についても一言申し上げたいと思います。顧客の意向を重視した理由の説明をする方向で案が示されているところについては賛成ですが、結果的に現場での説明が現状とほとんど変わらず、規制が骨抜きになることでは意味がないと思いますので、他の選択肢があることをきちんと顧客に認識をさせた上で、価格やサービスの質といった通常の顧客の関心事項を踏まえた理由の説明が、最低限求められるという観点を監督指針等で示していただくことが必要ではないかと思います。そうすることで保険会社からの便宜供与や、テリトリー制のように代理店側の都合によって顧客が保険会社を選択する機会が奪われるような事象をなくしていくことができるのではないかと思いました。

第5回WG議事録

【滝沢委員】

次に、適切な比較推奨販売の確保についてです。便宜供与その他の手厚さにより営業所で推進する商品を事実上、一つに絞り込むテリトリー制のような販売手法が今回、顧客利益保護の観点から排除されるというのは大変望ましいと思っております。

WG報告書においても「顧客の意向にかかわらず、便宜供与等の乗合代理店の利益のみを優先して特定の保険会社の商品を推奨することは、その理由を適切に説明していたとしても、顧客の適切な商品選択を阻害し得るものであり、最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務を果たす観点からは適切な対応とは言えないと考えられる。」(WG報告書7p)として、適法だが不適切なものになりうるという言及がなされました。

 

「【保険業法改正の羅針盤⑥】比較推奨販売(特にいわゆるハ方式)の現在地③」へ続く

 

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
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