コラム

2025年1月23日
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【保険業法改正の羅針盤③】保険業法改正の対象の広がり、必要性の高まり

今回の保険業法改正は、BM事件をきっかけとして「顧客本位の業務運営の徹底」を目指して行われることが金融審議会WGで議論されていました。

これに加えて、先日、大規模な兼業代理店に対する規制を強化する法律案が金融庁から提出されるとの報道がなされました。今回の保険業法改正は、前回の改正と異なり、さまざまな問題が発生している状況下であり、変化を追っていくことがこれまで以上に重要だと感じます。

 

自動車修理業などを兼業する代理店には、修理業務などで顧客に不利益が及ばないか監視するための体制整備を求める。これにより、修理費を水増し請求するといった事案があった際に、保険業法に基づいて行政処分できるようになる。現行の保険業法では、保険金の水増し請求については違反規定がなかった。

読売新聞オンライン「保険金水増し、処分の対象に…旧ビッグモーターの問題受け金融庁が保険業法改正案」https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250122-OYT1T50270/

日経新聞電子版「金融庁、保険金水増しも処分対象に 代理店の規制厳しく」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB16AMH0W5A110C2000000/

これらの報道の発端になった保険金水増し事件については、1月21日の報道では、「立ち入り検査の結果、特定の保険加入を条件に自動車の価格を値引くなどの違反行為があった」(日経新聞電子版 2025年1月21日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB20A6F0Q5A120C2000000/)とされ、特別利益の提供の禁止や比較推奨販売の違反の問題が検査の結果明らかになったもので、加藤財務大臣も記者会見で触れています。

 

加藤財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(令和7年1月21日(火曜日))
問)日経新聞の報道で、金融庁がトヨタ自動車の直営販売会社のトヨタモビリティ東京と、中古車販売大手のグッドスピードに対して、保険業法に基づく業務改善命令を近く出す方針を固めたという報道がありました。これについて事実関係等、コメント等ありましたらお願いします。
答)いずれにしても、報道も近く出す方針ということでありまして、決定云々という話をされているわけではないと承知をしておりますし、そうしたプロセスも含めて、個々の事案について、政府としてこれまでもコメントは控えさせていただいたところであります。
 ただ一般論として申し上げますと、まず損害保険業界においては、保険金不正請求などに関連し、一昨年以降複数の問題事案が発生していること、これは甚だ遺憾なことであります。
 金融庁では、重大な問題が認められた損害保険会社や保険代理店に対しては、法令に基づき、これまでも厳正に対処してまいりました。引き続き、一連の保険金不正請求事案などについては、保険契約者等の保護を図る観点から、保険代理店や損害保険会社に対し、保険業法に基づく報告徴求、立入検査を含め、しっかりと対応するとともに、判明した事実に応じて厳正な対処を図っていきたいというように考えています。
https://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20250121.html

これらの報道を踏まえますと、金融審議会WGの報告書で、「「特定大規模乗合保険募集人」のうち保険金関連事業を兼業する者に対しては、下記「(3)「特定大規模乗合保険募集人」に求める体制整備のあり方等」で後述する体制整備義務の一環として、(ⅰ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害するおそれのある取引を特定した上で、(ⅱ)それを適切に管理する方針の策定・公表、(ⅲ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害することを防止するためのその他の体制整備(修理費等の請求に係る適切な管理体制の整備等)を求めることが必要である」(WG報告書6p)とされていた部分について、「規模の大きな兼業代理店の体制整備義務」として法案に追加され(代理店による保険金水増し請求は、「顧客に不利益を与えない体制を整備する義務の違反」として行政処分の対象となる見通し)、また、「競争条件をゆがめる物品の購入の禁止」が(特別利益の提供の禁止など、保険契約締結に関する禁止行為のところかと思われますが)明文に追加されるものと予想されます。

国会に法案が提出されるまでには、金融庁が原案をつくる→与党で議論する→衆議院、参議院の法制局で審査する→政府提出法案(閣法)として閣議決定という流れがこれからありますので、内容が追加される可能性はまだ残されています。

国会の召集は1月24日ですが、法案自体の提出は3月~4月となると思われ、今後の展開も注視していきたいと思います。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
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