コラム

2025年1月29日
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【保険業法改正の羅針盤④】相次ぐ行政処分から学ぶ代理店に求められる保険募集管理態勢

1月22日、金融庁から法律案が与党に提出され、本格的な保険業法改正のフェーズに入りました(報道に関するコラムはこちらhttps://hkn.jp/column/compass-of-insurance-business-law-revision-3-expansion-of-the-scope-of-the-insurance-business-law-revision-and-the-growing-necessity-of-the-revision/)。そのような中、1月24日、トヨタモビリティ東京株式会社、株式会社グッドスピードに対して行政処分が出されました。

https://www.fsa.go.jp/index.html

この行政処分は、ディーラーの兼業代理店になされたもので共通する部分もあり、また、その処分理由には強いメッセージ性があります。これらの行政処分の理由から、一般論としてもほかの兼業代理店においても今後の代理店における保険募集管理態勢整備の材料にできる事項について整理をしたいと思います。

 

1 「トヨタモビリティ東京株式会社に対する行政処分について

https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekt_cnt_20250124001.html)」から学ぶ事項

① 経営管理態勢(ガバナンス)について

兼業代理店においては特に意識すべき事項ですが、「当社経営陣は、保険事業に関しては、「本業ではない」との意識が根底にあり、同事業に保険業法等に精通した十分な人的リソ-ス(質・量)を配賦していないほか、人材育成も行っていないため、3ラインオブディフェンスによるそれぞれの取組が形骸化している。」「経営陣自身が保険業法等に関する知見を有しておらず、保険事業の内部統制の構築に向けた議論を全く行っていない等、ガバナンス体制が機能不全となっている」(注;赤文字は筆者による)と指摘されました。兼業代理店という呼ばれ方からも、金融事業であるにもかかわらず保険事業が「本業ではない」と認識されるということは経営陣の認識として大きな問題と思われます。

② 保険募集管理態勢について

以下の2点は多くの代理店でも注意すべき事項と思われます。

  • 推奨保険会社を選定して商品を推奨する場合、顧客に対してその推奨理由の説明が義務づけられているが、保険推進室担当役員は、保険募集に係る法令等に関する知見に乏しく、店舗ごとに推奨理由を定めていない。
  • 多数の保険募集人が、推奨保険会社の商品を推奨する理由を説明していないほか、保険募集人が個々に創作した推奨理由を説明している事例が認められる。(注;赤文字は筆者による)

今後、比較推奨販売のハ方式がなくなることから、特にお客様への推奨理由については各代理店において真摯な検討が重要となります。

③ 顧客情報管理態勢について

経営陣の知識に関する言及が続き、「経営陣及び担当部署は、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」等の存在すら認知していないため、法令等で求められている各種安全管理措置を講じておらず、個人情報を適切に管理するために必要な体制整備を怠っており」(注;赤文字は筆者による)として、顧客情報管理態勢全般について問題が指摘されています。

金融事業を行っていることの認識の甘さが大きな問題となっています。

 

2 「株式会社グッドスピードに対する行政処分について

https://lfb.mof.go.jp/tokai/kinyuu/kinyuu/20250124.pdf)」から学ぶ事項

本件では、経営管理態勢(ガバナンス)において、保険募集管理態勢の構築を怠ったことが指摘されており、以下の事項が処分理由として明記されています。

・保険募集管理部門の責任者(以下、「保険募集管理責任者」という。)は、営業推進業務を優先し、店舗の付保率を向上させる取組に注力していることから、保険募集人に対する体系的な指導要領や研修の具体的手順・時期を定めた実施要領を整備しておらず、保険募集人の教育・管理・指導を行う体制を構築していない。

・保険募集管理責任者は、契約後早期に解約・解除された契約が直近1年に全店舗の8割以上の店舗において発生し、不適切な募集が行われている可能性があることを認識していながら、これらの契約に対するモニタリングのルール・方法等を策定しておらず、モニタリングを通じて不適切な保険募集を検知し得る態勢を整備していない。

・保険募集管理責任者は、特定の保険会社の保険商品を推奨販売するにあたり、「損害保険商品に関する推奨販売方針」を策定し、「日常のサポート体制や事務に精通している」ことを各店舗一律の推奨理由としているが、実際には「保険会社からの入庫紹介等による当社への本業支援」や「店舗の保険付保率の高低等の実績」により推奨保険会社を選定している。加えて、顧客に推奨理由を説明しなければならないことをマニュアルに明確に規定していないほか、推奨方針・理由の説明についての実態把握も行っていない。

・保険募集管理部門は、当社が販売を推進する長期自動車保険について、保険期間の最終年度に事故が発生した場合等には、1年契約の自動車保険と比べて支払保険料の総額の面で不利になるケースがあることを踏まえて、適切に顧客への説明を行う措置を講じていない。

中でも、「保険募集人に対する体系的な指導要領や研修の具体的手順・時期を定めた実施要領を整備しておらず、保険募集人の教育・管理・指導を行う体制を構築していない」、「契約後早期に解約・解除された契約が直近1年に全店舗の8割以上の店舗において発生し、不適切な募集が行われている可能性があることを認識していながら、これらの契約に対するモニタリングのルール・方法等を策定しておらず、モニタリングを通じて不適切な保険募集を検知し得る態勢を整備していない」とされたことは、非常に具体的な処分理由であり、多くの保険代理店の体制整備の参考になると思われます。さらに「当社が販売を推進する長期自動車保険について、保険期間の最終年度に事故が発生した場合等には、1年契約の自動車保険と比べて支払保険料の総額の面で不利になるケースがあることを踏まえて、適切に顧客への説明を行う措置を講じていない。」(注;赤文字は筆者による)との処分理由は、まさに顧客本位の業務運営を考えるにあたり、非常に参考になる指摘です。保険代理店として、お客様に商品を推奨する際に、お客様にどういった場合に不利になるのかも踏まえた説明を行う態勢を構築することが要請されているものと解されます。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。

 

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