コラム

2024年12月28日
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保険業法改正の羅針盤①〜過去から学ぶ次のステップ〜

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。

1 はじめに

2024年12月25日、「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書」が公表されました。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/2.pdf

今後、この報告書を踏まえて監督指針、保険業法の改正が行われます。保険業法の改正は、保険業界全体にとって大きな節目となる出来事であり、保険会社だけでなく、保険代理店、保険仲立人など業界全体で対応を進めていくことになります。そこで、前回の保険業法改正(2013~2016年)を振り返り、これらの過去の経験を通じて、保険業界に関わるすべての方が、次の改正を迎える準備を進める一助となることを目指します。

 

2 2016年保険業法改正のスケジュール

①2013年6月7日 「新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」の報告書公表。金融審議会のワーキング・グループが報告書を公表し、保険商品の多様化、顧客保護の強化に向けた提言が行われました。

②2014年3月14日 「保険業法等の一部を改正する法律案」の国会提出。金融庁が報告書を受けて改正案を策定し、第186回通常国会に提出。内容は意向把握義務、情報提供義務の強化を目的としたもの。

③2014年5月23日 保険業法改正案が成立。5月30日 公布され、改正内容が正式に官報で公布されました。

④2015年2月18日~3月19日 監督指針案のパブリックコメント募集。 金融庁が改正法施行に向けた具体的な運用ルール(政令・内閣府令・監督指針案)を公表し、意見を募りました。

⑤2015年5月27日 関係政令・内閣府令の公布。改正保険業法の施行に向けた詳細な規則が制定されました。

⑥2016年5月29日 改正保険業法が全面的に施行されました。

 

3 過去から学ぶべきポイント(スケジュール管理の重要性)

保険業法改正は、報告書の公表から施行まで数年にわたる計画的なプロセスを経て実現されます。前回改正を例にすると、2013年の報告書公表から2016年の施行まで約3年間が費やされ、その間に改正内容の具体化や運用ルールの整備が行われました。この間、パブリックコメントの募集や生保協会や損保協会を通じた現場への説明会によって、業界全体が改正に適応する準備が進められました。特に意向把握義務については、各所で勉強会が開催され、生保型、損保型の区別や帳票の改訂、意向把握のためのアンケートの作成、保存着鵜の確認など多くの試行錯誤が現場において行われました。

今回の改正でも、スケジュール管理は重要となります。まず、各関係者で報告書を読み込み、今回の改正の趣旨を把握します。そのうえで、法律案、監督指針案が公表された時点で、パブリックコメントの対応を通じて規制内容を正確に把握し、課題を整理することが必要となります。その際に、各社の実務に沿った課題整理のための理解の助けとして、外部専門家に整理を依頼することも重要です。次に、改正内容を現場に適切に浸透させるための教育や研修が欠かせません。改正法施行に合わせてHPやパンフレットの改訂準備も必要ですし、さらに、改正対応を踏まえたシステムの選定、更新や運用プロセスの見直しも早期に着手すべき重要な課題です。

これらの対応を計画的に進めることで、改正施行前に必要な対応を完了させ、顧客保護や業務の円滑化を実現できます。スケジュール管理を徹底し、各段階を着実に進めることによって、混乱なく法改正対応の成功に導くことができます。

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