コラム

2026年3月10日
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「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会」を追う②

2月10日に開催された「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会」(第2回)議事要旨及び資料が公開されました。

今回は議事要旨から、意見交換の部分と今後の検討の方向を確認します。

1 意見交換

意見交換においては、保険キャパシティのひっ迫やアンダーライティング高度化、リスクマネジメント文化、リスクエンジニアリングについて意見がでています。

① (保険キャパシティ不足・アンダーライティングの高度化)

事務局説明資料 https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210/01.pdf

  • 損保会社側としては、政策保有株式の売却等により損保会社の資産運用リスク量は削減されており、損保会社が引き受け可能なリスクの総量は増加しているとの認識。また、適切なアンダーライティングにより、適切な条件の下で保険契約を引き受けた結果、一部の企業においてはキャパシティが集まりにくくなっているという認識をもっている。
  • 一方で、企業側としては、慶応義塾大学が実施している日本企業のリスクマネジメント実態調査の回答結果にも表れているように、保険のキャパシティ不足は深刻化しているとの認識。また、これまで不要だったアンダーライティング情報を急に求められても、企業はすぐに対応することは困難である。
  • 特に企業財産保険分野を中心に、高額リミットの提供が難しくなっている。従前は、損保のフロンティング機能が発揮されていたが、再保険環境や資本効率等の観点から見直しが進んでいると考える。これは、市場環境の変化であり、一概に否定すべきものではない。
  • こうした企業側が認識する保険キャパシティ不足については、企業側がリスクマネジメントの高度化を図るとともに、損保側がアンダーライティングの一層の高度化を図ることが期待される。保険会社・企業・仲介業者が協力し、時間をかけて、リスク評価及びリスクに応じた対応のための情報収集、情報提供の体制を支援する必要がある。

https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210.html

保険キャパシティの不足に対して、企業側がリスクマネジメントの高度化、損保側がアンダーライティングの高度化という双方向からのアプローチが求められます。

「これまで不要だったアンダーライティング情報を急に求められても、企業はすぐに対応することは困難」とあることからも、企業側もこれまでとは異なる対応が求められますが、まずは中でのリスクマネジメント体制の構築からとなります。

(リスクマネジメント文化・経営関与)

資料5 https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210/05.pdf

  • 多くの日本企業は内部統制やコンプライアンス管理の延長としてリスクマネジメントを発展させてきたため、保険リスクマネジメントのようなリスクの定量化や財務的処理との親和性確保が難しい。両者の連携を強化し、特に保険付保可能(Insurable)な領域のリスク管理は保険リスクマネジメント部門が中心となって進めるべき。https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210.html

今後は経営管理部門、財務部門などがリスクの定量化などに関与することが望まれます。

事故や災害によって発生した損失について、特別損失として計上する会計区分について、経営陣が負っている善管注意義務の範囲には一見して含まれてこない(想定外の損失であるとして表示されることから、当然に注意を払うべき通常の経営指標としての予見義務、結果回避義務の問題として開示されるわけではない)という点も今後議論が深められてくると考えます。

(リスクエンジニアリングの課題)

資料4 https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210/04.pdf

  • 保険会社やブローカーが実施するリスクサーベイレポートが、アンダーライティングに有益。他方で、現場では、消防法など規制を遵守しているにもかかわらず追加の指摘を受けることで軋轢が生じている。リスクサーベイは「保険のため」ではなく、「企業全体のリスクマネジメントの向上に役立つもの」と現場に認識してもらうことが重要である。
  • 工場等現場とのリスク改善に関する議論では、趣旨背景の説明が重要。人命安全を目的とする消防法と、事業継続視点のリスクマネジメントの違いを丁寧に説明し、過去の事故実績やマーケットからの情報(リスクセンサー)も踏まえて、全社的コンセンサス形成が不可欠。こうした知見や情報を持つ損保業界からの支援も重要である。
  • 欧米では保険業界が保安防災の取組をリードしてきた歴史がある。日本においても、損害保険業界には優秀なリスクエンジニアが多数在籍しており、こうした知見を活かしながら国内の防災水準の向上に尽力いただけると有難い。
  • 損保業界は、防災・減災という観点からの建築基準の見直しなどを積極的に提言し、社会課題を解決する役割を果たすべき。保険は単に保険金を払うという経済機能だけでなく、災害に備えるという観点で顧客の行動を変えていく、仕組を変えていく力もあると考えている。
  • 日本のリスク認識が一般的に甘いとすれば、想定外の最悪シナリオを前提としたリスクマネジメントを行うことの多い海外の姿勢を見習う必要がある。https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210.html

消防法とリスクサーベイとの乖離は具体的なエピソードとして非常に分かりやすい例と思われます。

消防法の基準を満たすのみでは、企業全体として必要なリスクマネジメントの基準を満たさない(十分な保険が組成できない)という事態に対して、事業継続の視点と消防法の趣旨の違いを説明する役割は、各部署への説得的な働きかけが求められ、相当な専門的知見が求められることとなります。リスクエンジニアは、こうした知見から防災水準を上げていくこと、損保業界は、防災・減災という観点からの建築基準の見直しなどを積極的に提言し、社会課題を解決する役割を果たすべきとの提言がなされています。

2 今後の方向性

  • 日本企業のリスクマネジメントは守りになっており攻めの観点がない。企業のみの対応、保険会社のみの対応ではなく、複合的な取組が必要である。その際、必ずしもグローバルプラクティスに完全同調する必要はなく、日本の風土や文化を踏まえた強み(細かさ・品質重視)を生かした保険の活用や企業のリスクマネジメントを考えていくとよい。
  • リスクマネジメントの高度化に向けては、「動機(資本市場からの働きかけ)×能力(人材・データ)×体制(基盤)」の3要素が必要である。人材・データは保険業界にも蓄積がある。体制や経営資源については企業においてしっかりと投資をしていく必要がある。
  • リスクデータには競争領域と非競争領域が混在しており、どこまでを共同化できるかの切り分けは今後の重要論点。
  • 企業のリスクマネジメント高度化に向け、各ステークホルダーにさまざまな前提がある中で、中長期的には何らかルールづくりが必要である。一方で、いきなりルールを策定するのは非現実的のため、いわば「基本原則」、「ガイドライン」のような、リスクマネジメントはどのようなものなのかという観点を世の中に提示していく意義があるのではないか。
  • 企業にリスクマネジメントを根付かせるためには、ルールやガイドラインなどに加えて、ある程度企業側で取り組むためのインセンティブ付与も重要である。適格保険契約者に対するインセンティブの検討は有効な方策となり得る。また、キャプティブに関する論点についても、今後の議論に大いに期待したい。https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/siryou/20260210.html

今後の方向性からは、リスクデータの共同化はどこまでできるか、中長期的な基本原則やガイドラインの策定、企業側(適格保険契約者)のインセンティブ、キャプティブといったテーマがあげられています。適格保険契約者の論点は有識者会議でも議論されており、今後保険業法や監督指針への影響も見守っていきたいところです。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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