コラム
金融庁Discussion Paper Series 保険代理店にかかる海外制度調査-大規模乗合代理店を中心として を読む

今回は金融庁Discussion Paper Seriesの中に、保険業法改正の動向を占ううえで影響が大きいと思われる
「保険代理店にかかる海外制度調査-大規模乗合代理店を中心として」(https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2025/DP2025-1.pdf)があります。
この調査自体は99pもありますが、「・・・しかし、上記4か国の状況を知ることで世界の潮流を知ることができるとともに、我が国の制度の特徴も明らかになり、我が国における保険代理店制度のあり方を検討する上での示唆を得ることができた。そのため、まとめにおいて、本調査の中で特に興味深い点について取り上げた。」(https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/seika.html#DP2025-1)とあることから、今回は特にまとめの部分を読みたいと思います。
1 兼業について
保険代理店の兼業について、本ペーパーでは、「我が国の損害保険の保険料収入の約半分は自賠責保険を含む自動車保険が占め、その保険料収入のうち、自動車ディーラーなどの自動車販売業者や自動車の修理業者による兼業代理店が保険販売において重要な地位にある」ことが特に日本での特徴的なことと述べています。
また、「兼業代理店による自動車保険の販売を認めることは、自動車購入者にとって便宜であるし、自動車保険の普及を後押しし、無保険車の運行を防ぐ上でも有効な面がある。その一方において、販売業者の主要な目的は自動車販売等にあるので、企業の自由に委ねた場合、保険募集の質的向上に十分な経営資源が投入されるか懸念がある。」と報告されています。これは、今回の保険業法改正のきっかけとなる行政処分からも保険募集における法令等遵守態勢への取り組みの不十分さからも見て取れます。
なお、脚注から、自動車修理業以外の兼業として「代表的なものとして、住宅の修理業、不動産仲介業、ペットショップ、ペット医療関係がある。」とされており、これから明確化されてくる兼業特定保険募集人にはこれらの兼業が検討されているのではないかと思われます。
2 企業内代理店
企業内代理店については、以下のとおり国際的に見たその特殊性が述べられています。有識者会議やWGで特定契約比率規制の適用の猶予が終わることが報告されていますが、今後はどういった立ち位置になっていくのか注視していきます。
我が国の企業保険では、企業内保険代理店という保険に加入する企業グループ内における保険代理店が主要なチャネルになっているが、この点も、4 か国と比較すると日本の独自の特徴といえる。本調査は、企業内代理店に焦点を当てた調査をしたものではないが、外国の募集制度の調査において、そもそも企業内代理店という形態・概念に対応する用語(英語など)もなく、それに関する法規制も見当たらなかった。そもそも、そのような代理店の存在が稀であると考えられる。 このことを逆に言えば、日本の企業内代理店は、国際的にみても稀な制度といえる。そもそも企業内代理店は、代理店であるので、法的には保険会社を代理する立場であるが、経済的利益関係においては、被保険者企業グループの 100%子会社として、その保険に加入する側の企業グループの利益を代表する立場にあり、その立場は不明確である。外国に類似の制度がない場合、国際的な比較や議論においては、日本の制度の正当性をいかに説明するかは問われる。
https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2025/DP2025-1.pdf 93p
3 専属の従属代理店と独立代理店
保険代理店の過失等に対する保険会社の責任を考えていくうえでも、重要なポイントとして以下のとおり述べられています。
単一の保険会社に専属する代理店と複数の保険会社から委託を受け、保険会社からの独立性が高い代理店で監督法規制を区別する考え方である。前者は、特定保険会社との関係が強く、事業は単一の保険会社に依存する。一方、複数の保険会社から委託を受ける乗合の場合は、その分、保険会社からの独立性が高く、自律的な運営が可能であるし、それが求められるともいえる。
https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2025/DP2025-1.pdf 94p
4 保険会社の責任、供託金
上記の考え方と関連して、以下のとおり述べられています。保険会社において求償権行使の考え方を整理する必要性が有識者会議、WGで述べられているので、代理店の属性(専属か乗合か)ごとに考えるという点が参考になる部分です。
日本の法制度は、専属の代理店や個人の募集人については、その合理性が認められるとしても、大規模な乗合保険代理店に対してまで保険会社が責任を負うとする仕組みには検討の余地がある。法律が制定された時代と現在では、保険会社と代理店との関係も多様化しており、大規模の場合には、また、乗合の場合には、それだけ保険会社からの独立性が高く、自由度も高まる。そのような特徴に応じて保険代理店に求める規律の在り方について今後も検討を深めていくことが望ましいのではないか。現行法制の下で賠償責任を履行した保険会社が代理店に対して求償権を行使する場合と比較したときの利害得失を踏まえて、今後、賠償責任に関する規律のあり方について検討することには大きな意義が認められるように考えられる。
https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2025/DP2025-1.pdf 95p
執筆者プロフィール

- 株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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