コラム
令和7年9月 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点 を読む

令和7年9月 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点が公表されました(https://www.fsa.go.jp/common/ronten/index.html)。
今回は今後(2025事務年度)のモニタリング方針について重要な論点が掲載されています。
1 監督・検査に係る体制の見直し等(生保協会、損保協会共通。もっとも損保協会は「財務局を中心に、特定大規模乗合損害保険代理店等のモニタリング体制を整備するための定員増員要求等を行っている」点が相違)
○ 2026年度、金融庁では、「資産運用・保険監督局」の設置を目指しており、「資産運用・保険監督局」では、現在、監督局が担当している保険会社の監督等も担わせることを想定している。
○ 一方、これにより、各金融機関に対する当局の接触の仕方等が、従来から大きく変わるものではなく、保険会社に対する一義的な監督・検査は、これまで同様、保険課と財務局で実施することとなる。コンダクト、サイバーセキュリティといった、専門的横断テーマのモニタリング担当部局は、「銀行・証券監督局」に置くことを想定しているが、局が分かれたとしても、密に連携して様々な行政課題に対応していくことに変わりはない。
○ また、2026 年度に向けては、2025 年5月に成立した改正保険業法の施行を見据え、財務局を中心に、特定大規模乗合損害保険代理店等のモニタリング体制を整備するための定員増員要求等を行っている。
○ 一方、当局、保険会社ともに、限られたリソースを有効に活用する必要があり、こうした観点から、今後とも、保険会社毎に対応すべき課題に優先順位をつけ、関係課室のリソースを柔軟に投じることで、より実効性のある監督・検査を計画的に実施していく方針である。
○ くわえて、保険会社に限らず、多数の金融機関が共通して直面しているリスクや課題に関しては、金融庁より、これまで同様、様々な発信をすることになるが、金融機関の対応がより円滑なものとなるよう、発信に際しては、その位置付けが当局として特にお願いしたい要請なのか、一般的な注意喚起なのか、参考にしていただければよい情報提供なのか等、性格を明確にすることに留意したい。性格が分からないなどの疑問やお気づきのことがあれば、保険課に直接御連絡いただきたい。
これまでとの違いは専門的横断テーマ「コンダクト、サイバーセキュリティ」は、「銀行・証券監督局」に置くことを想定している点です。保険業界と銀証業で横断的なテーマとしてモニタリングがなされることになります。すでに「2025(令和7)年6月25日 健全な企業文化の醸成及び コンダクト・リスク管理態勢に関する 対話結果レポートhttps://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250625-2/02.pdf)において、大手保険会社も対話に参加していますから、準備が進んでいたことがうかがえます。
また、「金融機関の対応がより円滑なものとなるよう、発信に際しては、その位置付けが当局として特にお願いしたい要請なのか、一般的な注意喚起なのか、参考にしていただければよい情報提供なのか等、性格を明確にすることに留意したい。」とされた点は非常に重要です。発信のレベルが3段階「要請」「注意喚起」「参考」という性格付けが明確化されるとのことなので、保険会社としてはメッセージの受け止め方に軽重をつけることが可能となります。
2 監督・検査の着眼点
こちらは生保協会と損保協会で違いがあります。
(1)生保協会
○ 2025事務年度は、
・ 乗合代理店が保険会社からの便宜供与の実績等に応じて、特定の保険会社の商品を販売推進するといったことが明らかになったことを踏まえ、乗合代理店における適切な比較推奨販売を確保するとともに、大規模な乗合代理店に対する体制整備義務の強化に係る進捗について確認する。この点について、一部の生命保険会社より乗合代理店との適切な関係性の構築に係る取組方針などを公表されたが、他の保険会社におかれても、乗合代理店における募集品質を確保するため、自社の健全な企業風土の醸成やこれまでの営業慣行の見直し等を行い、乗合代理店との適切な関係性の構築をしっかりと図っていただくとともに、適切な改善が見込めない場合には毅然とした対応を行っていただきたい。
・ また、昨今の保険業界における情報漏えい事案等の問題が顕在化したことを踏まえ、保険会社等の適正な情報管理態勢の確保について確認する。
○ 金融庁としては、一連の不祥事案を受けた対応について、各生命保険会社の取組状況を確認するとともに、今後も監督指針の必要な改正、改正保険業法の施行に向けた準備を進める。各生命保険会社においても、我が国保険業の信頼回復を図るべく、気を引き締めて取り組んでいただきたい。
監督の着眼点は以下のとおり列挙されています。
- 乗合代理店における適切な比較推奨販売を確保
- 大規模な乗合代理店に対する体制整備義務の強化に係る進捗
- 乗合代理店における募集品質を確保するため、自社の健全な企業風土の醸成やこれまでの営業慣行の見直し等
- 保険会社等の適正な情報管理態勢の確保
(2)損保協会
○ 2025事務年度は、
・ 保険金不正請求事案や保険料調整行為事案の再発防止に向けた対応を促すとともに、顧客本位の業務運営の徹底と健全な競争環境を実現、法令遵守態勢の確立に向けた取組について確認する。
・ 特に、顧客本位の業務運営の徹底の観点からは、乗合代理店における適切な比較推奨販売を確保するため、大規模な乗合代理店に対する体制整備義務の強化に係る進捗や、保険会社の保険代理店管理のための体制整備の状況を確認する。
・ また、昨今の保険業界における情報漏えい事案等の問題が顕在化したことを踏まえ、保険会社等の適正な情報管理態勢の確保について確認する。
○ 金融庁としては、こうした一連の不祥事案を受けた対応について、各損害保険会社の状況を確認するとともに、今後も監督指針の必要な改正、改正保険業法の施行に向けた準備を進める。各損害保険会社においても、我が国保険業の信頼回復を図るべく、気を引き締めて取り組んでいただきたい。
○ また、大手損害保険会社を中心に、海外事業展開を含めた保険グループの拡大が進んでおり、グループ全体で経営管理態勢及びリスク管理態勢の高度化を図っていくことが重要であることから、グループガバナンスの高度化に向けた取組について確認する。
○ さらに、今事務年度も各損害保険会社と、持続可能なビジネスモデルの確立に向けた取組について意見交換を行っていく予定であり、2025事務年度は特に、大手損害保険会社を中心に、企業向け保険のビジネス戦略などについて、確認を行いたいと考えている。
監督の着眼点は以下のとおり列挙されています。
- 乗合代理店における適切な比較推奨販売を確保
- 大規模な乗合代理店に対する体制整備義務の強化に係る進捗
- 保険会社の保険代理店管理のための体制整備の状況
- 保険会社等の適正な情報管理態勢の確保
- 大手損害保険会社を中心に
- グループガバナンスの高度化に向けた取組
- 企業向け保険のビジネス戦略など
- 各損害保険会社と
- 持続可能なビジネスモデルの確立に向けた取組について
3 損害保険を活用した企業のリスクマネジメントの促進について(損保協会)
リスクマネジメントの重要性が改めて強調されています。2025年事務年度はリスクマネジメントについて幅広く啓蒙が行われる一年となりそうです。
近年、国内外で事業展開する企業は、自然災害の頻発・激甚化や地政学リスクの顕在化などにより、事業中断を余儀なくされるリスクや損失の拡大リスクが高まっていることから、企業のリスクマネジメントの取組みを強化していく重要性が高まっている。
○ こうした中、損害保険の活用も含め、企業がリスクを適切に管理しつつ、成長に向けた投資を推進していくことができるよう、2025 事務年度は、損害保険会社のほか、関係省庁や企業等の関係者間で共通理解の醸成に取り組んでまいりたい。
○ 損害保険会社においては、リスクマネジメントや保険商品に係る知見をリスクマネジメントの高度化に取り組む企業に共有する等、積極的な支援を行っていただきたい。
執筆者プロフィール

- 株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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執筆者監修のお役立ち資料
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・2025年監督指針徹底解説 保険代理店の今からできる対応事項book
・金融庁出向経験弁護士が答える 「保険業法改正Q&A一問一答」
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