コラム
【速報⑧(パブコメ№190~279)】令和7年8月28日公表 「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について を読む

9 Ⅱ-4-2-13 部分(№190~279)
Ⅱ-4-2-13 保険代理店に対する出向
(1) 不適切な出向の防止
保険会社が、保険代理店に対して自社の役職員を出向させ、保険募集に関する業務等に従事させることは、当該出向が過度の便宜供与として機能するなどにより、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引し、もって顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがある。
また、保険代理店の顧客情報等(Ⅱ-4-2-13 において、保険代理店が保険募集以外の事業を兼業している場合には、当該事業に係る顧客情報等を含む。)に接する機会のある出向者については、顧客情報等の不適切な共有を行う可能性があり、出向元保険会社の役職員が当該情報の共有を受けることを含め、個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)、不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)等の法令に抵触するおそれや、法令に照らして不適切な行為となるおそれがある。これらの問題点は、競合他社の顧客情報に接する機会のある乗合代理店への出向においては特に留意する必要がある。
さらに、特定の保険代理店に対する出向者数、出向期間や出向先において従事する業務の内容等によっては、保険代理店としての自立を阻害するおそれや、保険会社における利益相反管理の観点から不適切なものとなるおそれがある。
このように、保険代理店への出向には、過度の便宜供与と同様に顧客の適切な商品選択を阻害するおそれだけでなく、特有の弊害を生じさせるおそれが存在することを踏まえ、保険会社は以下のとおり、保険代理店に対する不適切な出向を防止する必要がある。保険代理店への出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、出向を行わないこととする。
(1)(1)不適切な出向の防止について
- 不適切な出向については、遅くとも現在の契約期間満了を以て解消するなど、可能な限り速やかに対応する必要がある(№190~192)
- 「Ⅱ-4-2-13 保険代理店に対する出向」とは、保険会社の役職員が保険代理店へ出向する場合であり(№193、196)、その他の出向については、別途Ⅱ-4-2-12(1)が適用されるところ、保険代理店に影響を及ぼし得る親会社等に対する出向についても、過度の便宜供与に該当するものは防止される必要がある(№0195)
- 出向者がいわゆる「フル出向」で出向元の業務を行っていない場合であっても、出向元保険会社と出向先保険代理店との間で利益相反(ここでいう「利益相反」とは、委託者である保険会社と受託者である保険代理店の間において、得られる利益が相反している場合)を生じる業務に従事するような出向については、防止される必要がある(№201、202)
(2) 態勢整備
保険会社は、自社の役職員の保険代理店に対する出向に関して、その適切性を担保するため、以下の措置を講じているか。
① 出向に係る方針等の策定
② 出向方針等の策定に係る、取締役会等やコンプライアンス部門等の適切な関与
③ 人事部門や営業部門等による、適切な出向施策の実施・出向者の管理
④ コンプライアンス部門や内部監査部門による、上記③の適切性に係る検証・監査
⑤ 必要に応じた出向方針等の見直しや改善に向けた態勢整備
(2)(2)態勢整備について
- 保険代理店への出向に関し管理・統括する部門を設置することが望ましい。また、当該統括部門において、社内規則に定める出向の判断基準を満たすこと、ならびに「Ⅱ-4-2-13 保険代理店に対する出向(3)出向の適切性に係る留意事項」を踏まえたものであることを判断・確認する態勢を構築するとともに、当該判断・確認した結果を記録することも望ましい(№205)
- 「②出向方針等の策定に係る、取締役会等やコンプライアンス部門等の適切な関与」の措置として、取締役会における決議やコンプライアンス部門における承認が考えられる(№209)
- 「③人事部門や営業部門等による、適切な出向施策の実施・出向者の管理」として、例えば、出向者と定期的に面談を行い、出向者が従事する職務内容等が変更されていないかを確認するとともに、出向の必要性や適切性について、Ⅱ-4-2-13 (3)の観点から、定期的に判断・検証を行うことが考えられる(№210)
- 不適切な出向の防止のための態勢整備に当たっては、出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、当該出向は防止されるべき「不適切な出向」に該当することから、当該出向を行わないこととするよう留意する必要があると考えます。この点を明確化するために、「保険代理店への出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、出向を行わないこととする」との記載を追記(№214、215)
№217
Q.(2)①出向の目的として、「(3)出向の適切性に係る留意事項」を踏まえ、「出向の目的として考えられる例」および「不適切と考えられる例」のそれぞれについて、以下の理解でよいか。
(出向の目的として考えられる例)
・当該保険代理店におけるお客様本位の業務運営・法令等遵守の実践・高度化※
・当該保険代理店との事業提携に伴うもの(事業提携については、地域活性化・サステナビリティに関するものなど委託業務(保険募集)以外のもの)
・出向者の人材育成(対象者の育成を目的として派遣し、出向負担金を請求しない形態であるトレーニー含む)
・セカンドキャリアの形成
※保険商品の販売に関する態勢の整備・高度化(保険商品の販売に関する企画、教育・管理・指導を含む)を目的とすることも考えられるものの、保険募集方針の策定や取扱保険商品の選定、保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などに関与する場合には、出向元保険会社の保険商品を優先的に取扱うなどの弊害が生じうる。保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などの職務については、個別の保険商品の販売に関するもの(保険募集に直接関与することに類するもの)であるため、不適切な影響を及ぼさないための措置を講じさせることが実質的に困難である(出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれを払拭できない)ことから、当該職務への関与は不適切である。
(不適切と考えられる例)
・(乗合代理店への出向の場合)実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引することを目的とした代理店との関係強化
・代理店における要員不足の補填A.出向の目的については、保険代理店の特性等に応じつつ、Ⅱ-4-2-13(3)に照らして、適切なものである必要があります。また、個別の出向の適否を判断するにあたっては、具体的事情に基づき検討される必要があると考えます。
このため、出向の目的のみによって直ちに出向の適切性を判断すべきではありませんが、「出向の目的として考えられる例」に例示された内容を出向の目的とすることは一概に否定されるものではないと考えられます。なお、「不適切と考えられる例」に例示されている「実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引することを目的とした代理店との関係強化」のための出向はⅡ-4-2-13(3)①アに照らし、不適切な出向に該当し得るものと考えます。また、「代理店における要員不足の補填」のための出向については、実質的には保険代理店における人員の育成・確保を保険会社が代替しているものとして、Ⅱ-4-2-13(3)①ア(注4)又は同③に照らし、不適切な出向に該当し得るものと考えます。さらに、御意見にある(出向の目的として考えられる例)のうち、「・当該保険代理店におけるお客様本位の業務運営・法令等遵守の実践・高度化」に関する※印にある「保険募集方針の策定や取扱保険商品の選定、保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などに関与する場合」については、個別の保険募集に対し、特に間接的な影響を及ぼし得るものであると考えられることから、不適切な影響を及ぼさないための措置を講じさせる必要があると考えます。したがって、不適切な影響を及ぼさないための措置を講じさせることが実質的に困難である場合においては、当該職務へ関与させないなどの対応をとる必要があると考えます。このほか、「・出向者の人材育成(対象者の育成を目的として派遣し、出向負担金を請求しない形態であるトレーニー含む)・セカンドキャリアの形成」については、いわゆるトレーニー出向も、自社の人材を提供した上で、その経済的負担を保険会社が負うことは、保険代理店に対する過度の便宜供与となり得ることから、保険代理店が享受する便益に照らし、合理的な金額を保険代理店が負担する必要があると考えます。
いわゆるトレーニー出向についても、自社の人材を提供した上で、その経済的負担を保険会社が負うことは、保険代理店に対する過度の便宜供与となり得ることから、保険代理店が享受する便益に照らし、合理的な金額を保険代理店が負担する必要がある(№245)。№218も出向の目的について具体例がありますが、考え方は同じです。
(3) 出向の適切性に係る留意事項
保険会社は、自社の役職員の保険代理店に対する出向に関して、保険代理店の特性等に応じつつ、以下の全ての点に照らしてその適切性を判断・検証しているか。
なお、一の保険会社等に専属する保険代理店への出向については、競合他社の顧客情報に接する機会が少ないこと等により、乗合代理店とは以下の弊害が発現するリスクが異なることも踏まえつつ、その適切性を判断・検証する。
また、(3)でいう出向には、保険会社が属するホールディングス又は企業グループ(注1)内の保険代理店への出向及び転籍を前提とした保険代理店への出向(注2)を含まない。これらの保険代理店への出向にあたっては、顧客の適切な商品選択の機会が確保されているかのほか、個人情報の保護に関する法律等の法令に違反する又は法令に照らして不適切な顧客情報等の共有の防止が確保されているかにより、その適切性を判断・検証する。
(注1) 企業グループとは、保険会社の親会社・子会社・親会社の子会社のほか、保険会社との関係で持分法適用会社となる会社をいう。
(注2) 転籍を前提とした保険代理店への出向とは、役職員が転籍を前提とするものであることを認識し、当該保険代理店において業務への適性を判断するために必要な期間派遣される場合をいう。
(注3) 保険会社の役職員が、自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合においても、下記①~④に準じた検討を行った上、その適切性を判断・検証し、不適切な事案が認められる場合には、解消するための措置を講じる必要がある。① 当該出向が、以下の点に照らし、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するものではないか。
ア. 特定の保険代理店への出向が、当該保険代理店における出向元保険会社のシェアの拡大等、営業推進の機能を有するなど、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれを有するものではないか。
(注4) 例えば、保険代理店に対する出向において、保険代理店が事業を営むために自ら負担すべき人件費や専門人材の育成又は確保に係る費用等を保険会社が肩代わりする場合には、上記のおそれが高くなることに留意する。
イ. 保険募集に直接関与するなど、出向先において従事する業務の内容が、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれを有するものではないか。
(注5) 営業企画部門など、保険募集に直接関与しない部門への出向であっても、保険募集方針の策定や取扱保険商品の選定、保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などに関与する場合には、出向元保険会社の保険商品を優先的に取扱うなどの弊害が生じうる。そこで、このような業務に関与する場合には、出向先保険代理店に対し、取扱保険商品の選定に係る検討過程の検証や、決定過程に出向者を関与させないなど、不適切な影響を及ぼさないための措置を講じさせる必要がある。
② 出向先の保険代理店において、出向者が顧客等の同意なく当該保険代理店の顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれが生じないことを確保しているか。また、その実効性について定期的に検証されているか。
(注6) 出向者の職務が、保険募集に直接関与しない職務であっても、顧客情報等に接する可能性があり、顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれが生じないように留意する。
③ 当該出向が、出向者数や出向期間、出向先での業務内容、当該代理店の規模や特性等に照らし、出向先保険代理店の自立を阻害するものではないか。なお、出向先での業務内容に関しては、以下のア.及びイ.に留意することとする。ア. 出向先での業務内容が、教育・指導、体制整備の支援の範疇を超える場合、出向先保険代理店の自立を阻害するおそれがあることに留意する。
イ. 営業企画部門や法令等遵守態勢の整備を担う部門など、保険代理店の業務の中核的な役割を担う部署への長期にわたる出向は、当該保険代理店の自立を阻害するおそれがあることに留意する。
④ 保険金関連事業を兼業する保険代理店に対する出向であって、修理費の算出等の保険金請求に関わる部門の業務に従事する場合など、当該出向が、保険会社における利益相反管理の観点から不適切なものではないか。
(3)(3)出向の適切性に係る留意事項について
- (注 1)の「子会社」とは、保険業法第 2 条第 12 項に定める「子会社」ではなく、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第 8 条第 3 項で定める「子会社」(保険業法上の「子会社」と「子法人等」の双方を含む)(№234)
- (注2)の「転籍を前提とした保険代理店への出向」に該当するかは、転籍を前提とするものであることについて、文字通り「役職員が認識している」だけで足り、雇用契約や文書等に明記されていることは不要(№236)
- (注2)でいう「必要な期間」は、保険会社が主観的に必要と考える期間のすべてではなく、合理的な理由と根拠に基づいて必要性を説明できる期間に限定される。さらに合理的な理由と根拠に基づいて必要性を説明できる期間か否かの判断においては、保険代理店からの求められた期間を形式的に前提とするのではなく、転籍後従事することとなる業務の性質に鑑みて、適切な期間である必要がある(№237)
- 保険会社からの出向者が、顧客と直接やり取りを行わない場合であっても、顧客と直接やり取りを行う保険募集人に対して指揮命令する立場にある場合等には、顧客と直接やり取りを行う場合と同様に取り扱う必要がある(№244)
№222
Q.(3)の 「なお、一の保険会社等に専属する保険代理店への出向については、競合他社の顧客情報に接する機会が少ないこと等により、乗合代理店とは以下の弊害が発現するリスクが異なることも踏まえつつ、その適切性を判断・検証する。」とあるが、一の保険会社等に専属する保険代理店においては、乗合代理店とは出向に伴う弊害が発現するリスクが異なることを踏まえつつも、(3)①から④までの留意事項のいずれかの内容が適用されないということではなく、全ての留意事項が適用されるとの理解でよいか。
A.貴見のとおりです。
なお、例えば、出向者が保険募集に従事することにより、意向把握・確認義務や情報提供義務を履行しないままに、顧客の意向に反するような出向元保険商品を提案するなどのリスクが存在することから、一の保険会社等に専属する保険代理店への出向に関しても、Ⅱ-4-2-13(3)①を適用する必要があると考えます。
専属代理店への出向におけるリスクとして「意向把握・確認義務や情報提供義務を履行しないままに、顧客の意向に反するような出向元保険商品を提案するなどのリスクが存在する」とされました。これは乗合代理店でも存在するリスクでもあり、専属代理店であることにより、比較推奨販売の前段としてのリスクを軽視しない旨が注意的に記載されたものと解されます。
№263
Q.保険会社は、「出向先の保険代理店において、出向者が顧客等の同意なく当該保険代理店の顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれが生じないことを確保」する必要があるということであるが、出向先と出向者との間で秘密保持契約を締結すれば、かかる確保はできているという理解でよいか。仮にそうでなければ、具体的にどのような方法でかかる確保を行うことを想定しているか。
A.保険会社は、秘密保持契約の締結にとどまらず、競合他社の顧客情報に接する機会の多い営業部門への出向は行わないこと等、顧客等の同意なく顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれを生じさせないために必要な範囲で態勢を整備する必要があると考えます。なお、態勢整備に当たっては、出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、当該出向は防止されるべき「不適切な出向」に該当することから、当該出向を行わないこととするよう留意する必要があると考えます。
この点を明確化するために、「保険代理店への出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、出向を行わないこととする」との記載を追記いたします。
出向先と出向者での「秘密保持契約の締結にとどまらず、」とされたことから、秘密保持契約の締結は適正な出向の前提と解されます。
№267
Q.(3)③に関して、出向する役職員の人数及び出向の期間は、出向の目的に照らして適切なものとし、毎年、出向の目的に照らして適切かを判断・記録・管理する必要があるとの理解でよいか。
A.個別事例ごとに実態に即して判断される必要がありますが、「出向の目的に照らして適切かを判断・記録・管理」することは、態勢整備の一環である「人事部門や営業部門等による適切な出向者の管理」、「必要に応じた出向方針等の見直し」とも整合的であり、出向の適切性を担保するための有効な措置の一つと考えられます。
一方で、その頻度については、一般的な人事施策を踏まえれば、少なくとも年に一度は実施される必要がありますが、出向の適切性を担保するために必要と認められる場合には、さらに短い頻度で実施されるべきものと考えます。
「必要に応じた出向方針等の見直し」は、その頻度については、「少なくとも年に一度は実施される必要」があるとされました。
▼【速報⑨】令和7年8月28日公表 「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について を読む
https://hkn.jp/column/51
執筆者プロフィール

- 株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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執筆者監修のお役立ち資料
・2025年監督指針徹底解説 保険代理店の今からできる対応事項book
・金融庁出向経験弁護士が答える 「保険業法改正Q&A一問一答」
・【ハ方式→ロ方式】意向把握 完全移行マニュアル
・弁護士監修 乗合代理店の為の保険業法改正対応の手引き
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