コラム
参議院常任委員会調査室・特別調査室「令和7年保険業法改正の国会論議」を読む

7月25日、参議院常任委員会調査室・特別調査室「令和7年保険業法改正の国会論議」が公表されました。
第217回国会における、改正保険業法についての議論がまとめられています。
原案のまま可決していることもあり、これまでの有識者会議、金融審議会を踏まえた議論が展開されました。中でも国会での議論で注目すべき点は以下の3つと思われます。
1 専属代理店に係る対応方針
1社のみの保険会社と委託契約を行う専属代理店については、単一の所属保険会社が責任を持って適切な管理、指導等を行うことが基本であり、保険金不正請求事案のような問題も顕在化していないことから、本改正案における体制整備の上乗せ義務の対象には含まれていない。しかし、金融庁は、仮に、意図的な分社化等により、あえて複数の専属代理店を多数設立するといったような形で潜脱を行おうとする保険代理店が現れた場合には、こうした保険代理店を一体のものとして捉えた上でモニタリングを行うなど、厳正に対処していく旨述べた
立法と調査 №477 110p https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2025pdf/20250725104.pdf
今回の法改正のおもな着眼点は乗合代理店ですが、専属代理店に対しても、法規制の潜脱になることはできないように徹底したモニタリングが想定されます。
2 フランチャイズ対応
フランチャイズ方式の乗合代理店の実態等は様々であるところ、保険会社において営業上の配慮が働き、適切な管理、指導が行き届かなくなるおそれがある場合には金融庁において、まず保険会社にしっかりとした対応を求めるとともに、リスクベースのモニタリングの徹底を通じて、フランチャイズ全体を一体のものとして適切にモニタリングしていく旨述べた。立法と調査 №477 112p https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2025pdf/20250725104.pdf
こちらはフランチャイズ方式の乗合代理店について、フランチャイジー全体としてみたときに特定大規模乗合代理店と同じような規模感になるところもあり、どうやってモニタリングしていくのかの議論がなされたところです。リスクベースでモニタリングするということであり、また、国会の議事録にも残っていることから、個々の代理店で中小規模の代理店としてモニタリングされるのではなく、実態に応じて全体として一体の厳格なモニタリングがなされるものと思われます。
3 中小規模の乗合保険代理店における比較推奨販売への影響
比較推奨販売に関する規定の見直しにより、いわゆる中小自動車ディーラーを含む中小規模の乗合保険代理店では負担が特に過大となるおそれもあり、顧客側から保険商品の選択を任せるという場合には画一的な対応ではなく、従来の柔軟な運用も許容すべきではないかという旨の指摘があった。これに対し、金融庁は、顧客の意向を把握する前に、取り扱う全ての保険商品を詳細に説明することを求めるものではないとした上で、保険商品に附帯されるサービス、アフターフォローの状況、保険料の水準といった顧客のニーズを把握し、適切な商品を推奨する必要がある旨答弁した。 なお、金融庁は保険金不正請求事案の再発防止を十分に図る観点から、監督指針の改正や内閣府令等の下位法令による対応等での取組を進めるに当たっても、中小規模の保険代理店等に対して不必要で過度な負担とならないよう留意したいとしている。立法と調査 №477 115p https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2025pdf/20250725104.pdf
もっとも注目度の高い比較推奨販売に関する部分です。
「金融庁は、顧客の意向を把握する前に、取り扱う全ての保険商品を詳細に説明することを求めるものではないとした上で、保険商品に附帯されるサービス、アフターフォローの状況、保険料の水準といった顧客のニーズを把握し、適切な商品を推奨する必要がある旨答弁した。」という点は大変重要です。これらの事項はほぼ確実にヒアリングすべき事項でしょう。また、「中小規模の保険代理店等に対して不必要で過度な負担とならないよう留意したい」と述べられました。
この不必要で過度な負担にならない、という表現は、特定大規模乗合代理店の文脈においても「特定大規模乗合損害保険代理店に対するモニタリングについて、金融庁は、リスクベースでのモニタリングを実施していく中で、損害保険代理店の業態、違反リスク、過去の実績を適切に勘案していくとし、損害保険代理店に対して不必要で過度な負担とならないよう、留意するとしている」と述べられている部分と同じ表現であり、実態として態勢整備義務が緩和されるものではないと思われます。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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