コラム
2025年7月保険モニタリングレポートを読む①

2025年7月4日、今年の保険モニタリングレポートが金融庁から公表されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250704/01.pdf
本レポートの目的は、「保険行政の透明性を高めつつ、各保険会社と課題認識等を共有しながらPDCA サイクルをより強く意識した行政運営を行っていく。」ことにあるとされています。
今回は特に保険代理店向けの読むべき事項について確認していきたいと思います。
1 保険代理店における募集管理態勢の高度化
【金融行政上の課題】
生命保険代理店は、近年、営業職員チャネルに並ぶ主力チャネルに成長しており、損害保険代理店も、引き続き、損害保険会社の販売の大部分を占める主力チャネルとなっている。保険代理店は、顧客との直接的な接点として、顧客と保険会社をつなぐ重要な役割を担っていることからも、金融庁においては、財務局とも連携しつつ、保険代理店における業務品質の向上や体制整備の高度化を促していくことが必要である。
また、「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ(以下「2.保険代理店における募集管理態勢の高度化」においては、「損保 WG」)」報告書における提言も踏まえ、大規模乗合代理店等に対する監督のあり方について、今後検討していく必要がある。
特に2024事務年度の実績として、ヒアリング結果が注目されます。
なかでも③損保WGを踏まえた対応は、今後の法改正の流れを読むうえで一読の価値があります。
③損保WGを踏まえた対応
比較推奨販売の適正化については、保険金関連事業を兼業する保険代理店や企業内代理店において、今後の方針に懸念を表明する先が多く存在した。その理由としては、推奨商品以外の事務に精通していないこと、自動車保険の商品性に差異がないこと又はシステム上の制約が多く挙げられた。今後、規制の趣旨を踏まえた上で、顧客本位の業務運営の観点から、実務上どのような対応が望ましいかについて、関係先との対話を経て明確化する必要がある。
大規模乗合代理店への上乗せ規制については、法令等遵守責任者が保険募集に従事しない者であることや、少人数の拠点への設置を求められた場合に支障があるとの声が多く寄せられた一方、苦情処理・内部監査体制の構築については、ほとんどの大規模代理店が既に自社で対応済みであり、大きな問題はないと回答した。また、所属保険会社に対する不祥事件届出の共有については、有効な取組みであるとの声もある一方、個人情報の取扱に関する懸念や、業務負荷軽減のためのシステム構築を望む声があった。こうした意見も踏まえ、実務上の対応を検討していく必要がある。
兼業業務の適切な監視については、今回ヒアリングを実施した、保険金関連事業を兼業する保険代理店の全てが不正・過大な保険金を請求することを防止する措置を講じていると回答した。今後はその実効性を確認していく必要がある。
企業内代理店については、ほぼすべてが自社の役割をグループ内のリスクマネジメントであるとしていた一方、一部の企業内代理店は、保険会社からの出向者に体制整備の一部を依拠していた部分があるため、保険会社の出向方針転換後の対応に課題を抱えていると回答しており、今後は保険代理店としての自立を促していく必要がある。
ここからは、以下の3点がポイントです。
- 比較推奨販売の実務上の対応については、今後の方針に懸念を表明する先が多く存在し、対話を基に明確化されること
- 所属保険会社に対する不祥事件届出の共有については、個人情報の取扱いの懸念が指摘されていること
- すでにヒアリングを受けたすべての保険代理店が保険金関連事業を兼業する保険代理店の全てが不正・過大な保険金を請求することを防止する措置を講じていると回答していること
これらの事実から、実務を踏まえた比較推奨販売(ハ方式の廃止)が着実に検討されていること、不祥事件届出については一定の情報共有の方法が個人情報保護法の観点でも整理が出てくることが予想されること、ヒアリングを受けている大規模な兼業代理店が行っている不正請求防止措置が、今後の監督指針の解釈の基礎になる(ほかの中小規模の兼業代理店における体制整備の参考となる)ことが言えるでしょう。
2 外貨建保険の募集管理等の高度化
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250704/01.pdf
苦情の発生率が落ち着いている傾向にあることが報告されています。また、本文からはアフターフォローの取り組みが参考になります。
④ アフターフォローの取組み強化
アフターフォローに関し、以下のような各生命保険会社による工夫が見られた。
・ 生命保険会社が代理店に提供しているアフターフォローツールについて、従来の各社共通のもの114に加えて、ターゲット型保険の目標到達前アフターフォローに資するツールを提供している事例
・ 提供した同ツールについて、代理店がダウンロードしたツール件数を生命保険会社が月次で把捉・集計する取組みに加え、代理店との個別対話や代理店点検の機会を捉えて活用状況を確認している事例
・ 同ツールを活用する代理店支店数拡大のため、支店からの要請により代理店本部が支店へ配布する等の好事例の共有や、一定数以上の ID 利用でシステムの接続コストが割安となるプランを生命保険会社が代理店に紹介する事例
・ 代理店による自律的な PDCA 態勢構築のために、生命保険会社が、アフターフォローの規定状況・実施方法・取組状況など、代理店との個別対話で共有した課題について解決まで継続的にサポートし、代理店の態勢構築を支援する事例
この中では、保険会社からの保険代理店に対する支援の在り方の例が示されています。監督指針で過度の便宜供与の考え方が示される中、「同ツールを活用する代理店支店数拡大のため、支店からの要請により代理店本部が支店へ配布する等の好事例の共有や、一定数以上の ID 利用でシステムの接続コストが割安となるプランを生命保険会社が代理店に紹介する事例」などの取り組みは過度の便宜供与にあたらないサポートの一例になり得ると解されます。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」『「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)』を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載される。
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