コラム
【速報】令和7年5月12日公表「保険会社向けの総合的な監督指針」(案)を読む⑥

Ⅴ 保険仲立人関係
Ⅴ-4-4 顧客との関係
本項では、保険仲立人と顧客との関係について改正がなされています。
(1) 再保険契約以外の保険契約の締結の媒介に係る手数料等の請求方法
① 企業分野の保険契約の締結の媒介に係る手数料等の請求
保険仲立人は、企業分野の保険契約の締結の媒介に関する手数料等について、顧客や引受保険会社等に請求できるが、請求を行うにあたっては、以下のいずれの事項も遵守しているか。
なお、保険仲立人が、顧客に対して手数料等を請求する場合にあたっては、例えば、保険契約の媒介に係るコストを大幅に下回る手数料等を設定するなど、不当な競争を招くおそれが生じないよう、留意する必要がある。(注) 「企業分野の保険契約」とは、Ⅴ-4-4(1)において、保険契約者及び被保険者が事業者の保険契約を指す。ただし、事業活動に起因して生じた損害をてん補する第二分野の保険においては、被保険者が当該保険契約者の役職員である場合を含む。なお、当面の間、自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)及び地震保険に関する法律(昭和四十一年法律第七十三号)に基づく保険契約を除く。
ア.保険会社等にのみ手数料等を請求する場合
(ア) 保険仲立人は、顧客の求めに応じて、顧客に対して、当該保険契約の引受保険会社等から受領する手数料等の金額又は保険料に占める割合を開示しているか。
(イ) 保険仲立人は、顧客に対して、当該保険仲立人と保険会社等又は保険持株会社との間で人的・資本的関係又は利害関係がある場合には、その旨をあらかじめ開示しているか。イ.顧客及び保険会社等の双方に手数料等を請求する場合
保険仲立人は、ア.(ア)及び(イ)に加えて、顧客が保険会社に対して支払う保険料を適切な水準にする観点から、以下の事項を遵守しているか。(ア) 媒介業務に係る契約の締結前に、顧客に対し、顧客及び保険会社等の双方に手数料等を請求することを説明しているか。
(イ) 保険会社において保険料を決定する前に、保険会社等に対しても、適切な方法により顧客から受領する手数料等の金額を開示しているか。
② 企業分野以外の保険契約の締結の媒介に係る手数料等の請求
個人顧客との間には情報の非対称性等から生じる交渉力の優位性が総じて残りやすいことを踏まえ、当面の間、上記①の手数料等の請求方法については、企業分野の保険契約のみを対象とし、これ以外の保険契約については、保険仲立人は、手数料等を、保険会社等に請求するものとする。
- これまで保険仲立人は、「保険契約の締結の媒介に関する手数料等」の全額を保険会社等に請求し、顧客に請求してはならないこととされ、、保険仲立人が保険契約締結の媒介とは別に「顧客のために行ったリスクマネジメントのサービスに対する報酬」については、顧客がその支払いを事前に承諾している場合には、受け取ることができるとされていました。今回の改正で、保険仲立人は「保険契約の締結の媒介に関する手数料等」について顧客にも請求できることになります。
- ただし、顧客から「保険契約の締結の媒介に関する手数料等」を受領できるのは、当面の間企業分野の保険契約に限定されます(Ⅴ-4-4(1)②)
- 顧客に対して手数料を請求する場合は、媒介契約締結前に双方に手数料を請求することの説明が求められます。これは金融審議会WGでも以下のように議論されていました。
【中出委員】
それから最後に、保険仲立人の利用促進についてですが、44ページになります。この媒介手数料の受領方法の自由化について、企業分野から始めるということについては、私もそれが妥当と考えます。ただ、この手数料の開示についての方針の最後の部分になりますが、保険仲立人は、今までは保険会社から手数料をもらい、これからは契約者からもらう、場合によっては両方からもらうということが出てくると、この取引の中では、契約者に対しても保険会社からもらうということをきちんと説明する必要もあるでしょうし、保険会社に対しても、顧客からいくらもらうのかということを言わないと、公正な取引が難しいのではないかという気がします。
このように考えるのも、通常、保険仲立人が入った場合には、保険会社と顧客が直接交渉するということは少なくて、基本は、保険仲立人が調整する場合が多いのではないかと思いますので、取引の中で、手数料は誰がどのように負担するのかは、顧客にとっても保険会社にとっても重要ですので、明確化をして取引を進める方式がよいのではないかと思います。
金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)議事録https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo_wg/gijiroku/20241115.html
第4回 金融審議会 損害保険業等に関する制度等WG 事務局資料 https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo_wg/siryou/20241115/2.pdf |
- 保険会社等にのみ手数料等を請求する場合、当該保険仲立人と保険会社等又は保険持株会社との間で人的・資本的関係又は利害関係がある場合には、その旨の顧客に開示することとされました。これは保険会社と保険仲立人との間で人的・資本関係又は利害関係がある場合、当該保険仲立人としては、保険会社が顧客から保険料として収入を得ることでグループ全体としての収入が確保されるため、保険料について高額であればグループ全体にとってもメリットになるインセンティブが働く可能性があり、顧客と利益相反の関係に立つことから、顧客に関係性を開示することを求めるものと思われます。
第3回 金融審議会 損害保険業等に関する制度等WG 事務局資料 https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo_wg/siryou/20241030/1.pdf |
(2) 手数料等以外に受領するサービスの対価
保険仲立人は、上記手数料等とは別に顧客のために行ったサービスの対価については、顧客がその支払いを事前に承諾している場合には、これを受け取ることができるが、この場合、保険仲立人が、当該サービスの提供前に書面その他適切な方法によりその明細を顧客に開示しているか。
- 本項については定義が整理されたもので、内容に大きな変更はありません。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」『「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)』を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載される。
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