コラム

2025年5月15日
Twitter Facebook LINE

【速報】令和7年5月12日公表「保険会社向けの総合的な監督指針」(案)を読む⑤

Ⅱ-4-2-14 代理店手数料の算出方法

個々の代理店手数料の算出方法については、代理店委託契約に基づき、損害保険会社と保険代理店との間の協議・合意により決定されている。
この算出方法について、保険代理店に保険募集に関する業務の健全かつ適正な運営を阻害する不適切なインセンティブを与え、不適切な保険募集を誘引することがないよう、以下の点に留意するとともに、これらの潜脱が防止されているか。
なお、代理店への手数料の算出に当たっては、保険募集に関する業務の健全かつ適正な運営を確保する観点から、コンプライアンス上疑義のある事案の発生状況等を考慮しているか。

(1) 損害保険会社による評価項目としては、「規模・増収率」に偏ることなく、「業務品質」を重視しているか。
(2) 業務品質評価の具体的な指標について、損害保険会社の事務効率化にとどまらず、顧客にとってのサービス向上や法令等遵守に資するものとなっているか。
(3) 乗合代理店におけるシェアの拡大・維持や、保険代理店の新設や乗合いの承諾を得るなどの営業上の目的で、他の損害保険会社の代理店手数料の割増引率に追随するなどの例外的な運用を行っていないか。
(4) 業務品質評価割合の考え方を開示しているか。

有識者会議において、代理店手数料ポイントに関し、「損害保険会社が、代理店手数料ポイント制度において、規模や増収面を重視し、保険募集に係る顧客本位の業務運営の観点からみた業務品質を必ずしも適切かつ十分に評価していないきらいがあり、この仕組みが、大規模な保険代理店に業務品質を軽視する不適切な保険募集のインセンティブを与えているおそれがある。」(有識者会議報告書7p)との指摘がありました。本項は、その代理店手数料ポイント制度の適切性確保に向けた項目です。

  • 「個々の代理店手数料の算出方法については、代理店委託契約に基づき、損害保険会社と保険代理店との間の協議・合意により決定されている。」とあることから、代理店手数料の算出方法に関する本項の定めは、損害保険会社に向けられたものと思われます。
  • 「コンプライアンス上疑義のある事案の発生状況等を考慮しているか」とは、 苦情や不祥事件届出等がどの程度発生しているのか(有識者会議報告書脚注9)を考慮すべきと解されます。
  • 「以下の点に留意するとともに、これらの潜脱が防止されているか」という点については、多くの機関の目を通すという意味で、「保険代理店の業務品質に関する第三者評価制度を早期に構築し、その運用を通じて得られた知見を損害保険会社にフィードバックすることで、損害保険会社が各損害保険代理店の「業務品質」をより適正に評価できるようにする。」(金融審議会WG報告書19p)との第三者評価制度に関する記載が参考になると考えます。

 

Ⅱ-4-5 顧客等に関する情報管理態勢

Ⅱ-4-5-2 主な着眼点

(1) 顧客等に関する情報管理態勢
① 経営陣は、顧客等に関する情報へのアクセス及びその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則(以下「Need to Know 原則」という。)を踏まえ、顧客等に関する情報管理の適切性を確保する必要性及び重要性を認識し、業務の内容・規模等に応じて、そのための組織体制の確立(部門間における適切な牽制の確保を含む。)、社内規程の策定、金融グループ内の他の金融機関(持株会社を含む。)との連携等、内部管理態勢の整備を図っているか。
② 顧客等に関する情報の取扱いについて、具体的な取扱基準を定めた上で、研修等により役職員に周知徹底しているか。特に、当該情報の他者への伝達については、上記の法令、保護法ガイドライン、金融分野ガイドライン、実務指針の規定等に従い手続きが行われるよう十分な検討を行った上で取扱基準を定めているか。
③ 顧客等に関する情報へのアクセス管理の徹底(アクセス権限を有する者の範囲が Need to Know 原則を逸脱したものとなることやアクセス権限を付与された本人以外が使用することの防止等)、内部関係者による顧客等に関する情報の持出しの防止に係る対策、外部からの不正アクセスの防御等情報管理システムの堅牢化などの対策を含め、顧客等に関する情報を適切に管理するための態勢が構築されており、コンプライアンス部門の関与のもと当該顧客等に関する情報の管理状況を適時・適切に検証できる体制となっているか。
また、特定職員に集中する権限等の分散や、幅広い権限等を有する職員への管理・牽制の強化を図る等、顧客等に関する情報を利用した不正行為を防止するための適切な措置を図っているか。 

 

  • 「顧客等に関する情報へのアクセス及びその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則」を「Need to Know 原則」とするという部分が目を引きます。この情報漏えい事案が多数発生した今般において、「業務遂行上の必要性」の解釈についてはどのようにあるべきか、パブリックコメントが期待されます。なお2022年4月22日金融庁「「金融商品取引業等に関する内閣府令及び金融サービス仲介業者等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」(https://www.fsa.go.jp/news/r3/shouken/20220422/01.pdf)№63において、「例えば、顧客との間で特別な定めのない限り、情報を入手した当該案件の遂行のためのほか、顧客の利益に資すると考えられる他のサービスを遂行する目的も含まれ得るとの理解でよいか。」との質問に対し、「Need to Know 原則における「業務遂行上の必要性」は、顧客の利益・目的・意思(同意の有無を含みます。)、業務内容等に鑑み、正当な必要性が認められるか否かを踏まえ、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられ、かかる正当な必要性が認められる限りでご質問のような目的が含まれ得ることは否定されません。」とされていることは参考になるものと思われます。
  • 顧客等の情報を他社に伝達するにあたって、「上記の法令、保護法ガイドライン、金融分野ガイドライン、実務指針の規定等に従い手続きが行われるよう十分な検討を行った上で取扱基準を定めているか。」とされました。法令やこれらのガイドラインに従うことは従前からも求められており、実態として変更はないと解されます。いくつかの行政処分の中で、経営陣がこれらの規定への理解が不足していた点が指摘されていることから、明示的に対応すべき規定を注記的に記載したものと思われます。

 

Ⅱ-4-12 政策保有株式の縮減

(1) 意義
損害保険業界においては、企業向け保険契約の入札等において、いわゆる政策保有株式等の実績が少なからずシェアに影響を及ぼしており、適正な競争を阻害していた。その結果、保険商品や保険サービス自体で適正に競争を行うよりも、保険料水準やシェアを維持するため、競争を避け、事前に保険料等を調整するといった不適切事案が発生し、業界に対する信頼が大きく損なわれた事例が認められている。このように、保険市場においては、政策保有株式が公正な競争を阻害する要因となり得ることを踏まえ、保険会社は以下の点を重視して、コンプライアンス上問題となり得る行為を防止する態勢を構築すべきである。
なお、政策保有株式のほか、保険シェアを獲得することを意図した預金協力や融資も、政策保有株式と同様に、公正な競争を阻害する要因となり得ることにも留意する。
(2) 主な着眼点
① 保険会社は、政策保有株式(非上場株式を含む)について、早期に縮減する方針を定めているか。特に、上場株式については、明確な年限を定めて縮減する方針を定めているか。
② 実質的な政策保有株式の保有継続につながらないよう、純投資と政策保有の区分の考え方、業務資本提携に付随した出資等について、企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和四十八年大蔵省令第五号)等を踏まえ、開示や関係者への説明等の十分な対応を行っているか。
(注) 政策保有株式は、業務資本提携に付随した出資の場合等、一律にその保有が否定されるものではないが、その保有の合理性を投資者等が判断できるよう、開示等を行うことが重要である。 

  • 特に損害保険会社の行政処分と業務改善計画の文脈で政策保有株式の縮減が話題になっており、損害保険業界においては・・・とされていますが、主な着眼点を見ると、損害保険会社という制限がないので、生命保険会社にも適用がありそうです。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
Twitter Facebook LINE

コラム一覧