コラム
【速報】令和7年5月12日公表「保険会社向けの総合的な監督指針」(案)を読む④

Ⅱ-4-2-13 保険代理店に対する出向
本項は、特に過度の便宜供与のなかでも様々な考慮要素がある「保険代理店に対する出向」の部分になります。
- この項目は「保険代理店」に対する出向が対象であり、「保険代理店等」に対する出向ではありません。保険代理店の親会社等への出向は、本項ではなく、Ⅱ-4-2-12(1)②イ(エ)、(オ)などを参考に判断することになると思われます。なお、損保協会の「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」では、「代理店および代理店に影響を及ぼし得る親会社等に対する出向」について留意を求めていますから、違いの確認が必要です。
- 保険会社の役職員が、自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合も本項に準じて適切性を検討することが求められています(Ⅱ-4-2-13(3)(注3))
- この項目も損害保険会社だけに限定されていないので、生命保険会社にも適用があります。
- 損害保険会社では、「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」(https://www.sonpo.or.jp/about/pdf/syukousya_guideline.pdf)についても併せて読む必要があります。
(1) 不適切な出向の防止
保険会社が、保険代理店に対して自社の役職員を出向させ、保険募集に関する業務等に従事させることは、当該出向が過度の便宜供与として機能するなどにより、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引し、もって顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがある。また、保険代理店の顧客情報等(Ⅱ-4-2-13 において、保険代理店が保険募集以外の事業を兼業している場合には、当該事業に係る顧客情報等を含む。)に接する機会のある出向者については、顧客情報等の不適切な共有を行う可能性があり、出向元保険会社の役職員が当該情報の共有を受けることを含め、個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)、不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法
律第五十四号)等の法令に抵触するおそれや、法令に照らして不適切な行為となるおそれがある。これらの問題点は、競合他社の顧客情報に接する機会のある乗合代理店への出向においては特に留意する必要がある。さらに、特定の保険代理店に対する出向者数、出向期間や出向先において従事する業務の内容等によっては、保険代理店としての自立を阻害するおそれや、保険会社における利益相反管理の観点から不適切なものとなるおそれがある。
このように、保険代理店への出向には、過度の便宜供与と同様に顧客の適切な商品選択を阻害するおそれだけでなく、特有の弊害を生じさせるおそれが存在することを踏まえ、保険会社は以下のとおり、保険代理店に対する不適切な出向を防止する必要がある。
(1)で不適切な出向防止の必要性として、以下の3つの視点が示されました。
- 過度の便宜供与と同様に顧客の適切な商品選択を阻害するおそれ
- 保険代理店の顧客情報等の不適切な共有を行うことによる個人情報保護法、不正競争防止法、独占禁止法に抵触するおそれ
- 保険代理店としての自立を妨げたり、利益相反管理の観点から不適切なものとなるおそれ
これらの視点からその適切性の担保を求めるものとなっています((3) 出向の適切性に係る留意事項)
(2) 態勢整備
保険会社は、自社の役職員の保険代理店に対する出向に関して、その適切性を担保するため、以下の措置を講じているか。
① 出向に係る方針等の策定
② 出向方針等の策定に係る、取締役会等やコンプライアンス部門等の適切な関与
③ 人事部門や営業部門等による、適切な出向施策の実施・出向者の管理
④ コンプライアンス部門や内部監査部門による、上記③の適切性に係る検証・監査
⑤ 必要に応じた出向方針等の見直しや改善に向けた態勢整備
出向の施策について、人事部門や営業部門等が所管しているケースが多いと思いますが、今後は出向方針の策定に取締役会やコンプライアンス部門の関与が求められることとなりました、さらに、出向施策の適切性についても検証・監査することが求められます。
出向に係る方針の策定に当たっては、「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」(https://www.sonpo.or.jp/about/pdf/syukousya_guideline.pdf)が参考になると思われます。
(3) 出向の適切性に係る留意事項
保険会社は、自社の役職員の保険代理店に対する出向に関して、保険代理店の特性等に応じつつ、以下の全ての点に照らしてその適切性を判断・検証しているか。なお、一の保険会社等に専属する保険代理店への出向については、競合他社の顧客情報に接する機会が少ないこと等により、乗合代理店とは以下の弊害が発現するリスクが異なることも踏まえつつ、その適切性を判断・検証する。
また、(3)でいう出向には、保険会社が属するホールディングス又は企業グループ(注1)内の保険代理店への出向及び転籍を前提とした保険代理店への出向(注2)を含まない。これらの保険代理店への出向にあたっては、顧客の適切な商品選択の機会が確保されているかのほか、個人情報の保護に関する法律等の法令に違反する又は法令に照らして不適切な顧客情報等の共有の防止が確保されているかにより、その適切性を判断・検証する。
(注1) 企業グループとは、保険会社の親会社・子会社・親会社の子会社のほか、保険会社との関係で持分法適用会社となる会社をいう。
(注2) 転籍を前提とした保険代理店への出向とは、役職員が転籍を前提とするものであることを認識し、当該保険代理店において業務への適性を判断するために必要な期間派遣される場合をいう。
(注3) 保険会社の役職員が、自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合においても、下記①~④に準じた検討を行った上、その適切性を判断・検証し、不適切な事案が認められる場合には、解消するための措置を講じる必要がある。
- 出向の適切性の判断において「以下の全ての点に照らしてその適切性を判断・検証」が求められます。これは後述する①~④のすべての点を判断考慮に入れることが求められています。
- 保険会社から保険代理店への出向の中でも、「一の保険会社等に専属する保険代理店への出向」については、乗合代理店とはリスクが異なることから適切性の判断が異なることになります。
- 本項の規制対象となる「出向」の定義から、以下のⅰ、ⅱが除かれました。これらの保険代理店への出向にあたっては、顧客の適切な商品選択の機会が確保されているかのほか、個人情報の保護に関する法律等の法令に違反する又は法令に照らして不適切な顧客情報等の共有の防止が確保されているかにより、その適切性を判断・検証することとされます。
- ⅰ 「保険会社が属するホールディングス又は企業グループ(保険会社の親会社・子会社・親会社の子会社のほか、保険会社との関係で持分法適用会社となる会社)内の保険代理店への出向
- ⅱ 転籍(役職員が転籍を前提とするものであることを認識し、当該保険代理店において業務への適性を判断するために必要な期間派遣される場合)を前提とした保険代理店への出向
- 注記3において、出向ではなく、「自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合」にもその適切性を判断することが求められました。一般的に、「出向」とは労働者が従業員たる地位を保有しつつ、当該事業所(出向元)から他の事業主の事業所(出向先)において勤務すること(在籍型出向)を言います。そうすると「自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合」というのは、保険代理店において勤務するわけではない(指揮命令下にあるわけではない)ので、「出向」には当たりません。しかしながら、有識者会議報告書9pにおいて、出向「等」の適正化が求められており、「出向以外にも、業界における長年の慣行として、保険会社の役職員が自社に在籍したまま、保険代理店におけるバックオフィス業務等を代行するというケースもある。これらの保険代理店への出向や保険代理店の業務の代行(以下「出向等」という。)については、保険代理店の業務品質の向上や顧客ニーズの発掘による商品開発への貢献等、保険代理店と損害保険会社の双方にとって利点があるとも考えられるが、他の便宜供与と同様に、それが過度なものであれば、顧客の適切な商品選択が阻害されるおそれがある。」 とされていました。具体的には、保険代理店におけるバックオフィス業務等として「例えば、保険料の試算、保険契約に係る申込書の作成及び契約者からの照会対応等が含まれる。」(有識者会議報告書脚注14)が具体例として挙げられています。
① 当該出向が、以下の点に照らし、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するものではないか。
ア. 特定の保険代理店への出向が、当該保険代理店における出向元保険会社のシェアの拡大等の営業推進として機能するなど、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれを有するものではないか。(注4) 例えば、保険代理店に対する出向において、保険代理店が事業を営むために自ら負担すべき人件費や専門人材の育成又は確保に係る費用等を保険会社が肩代わりする場合には、上記のおそれが高くなることに留意する。
イ. 保険募集に直接関与するなど、出向先において従事する業務の内容が、出向元の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれを有するものではないか。
(注5) 営業企画部門など、保険募集に直接関与しない部門への出向であっても、保険募集方針の策定や取扱保険商品の選定、保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などに関与する場合には、出向元保険会社の保険商品を優先的に取扱うなどの弊害が生じうる。そこで、このような業務に関与する場合には、出向先保険代理店に対し、取扱保険商品の選定に係る検討過程の検証や、決定過程に出向者を関与させないなど、不適切な影響を及ぼさないための措置を講じさせる必要がある。② 出向先の保険代理店において、出向者が顧客等の同意なく当該保険代理店の顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれが生じないことを確保しているか。また、その実効性について定期的に検証されているか。
(注6)出向者の職務が、保険募集に直接関与しない職務であっても、顧客情報等に接する可能性があり、顧客情報等を出
向元の保険会社に共有するおそれが生じないように留意する。③ 当該出向が、出向者数や出向期間、出向先での業務内容、当該代理店の規模や特性等に照らし、出向先保険代理店の自立を阻害するものではないか。なお、出向先での業務内容に関しては、以下のア.及びイ.に留意することとする。
ア.出向先での業務内容が、教育・指導、体制整備の支援の範疇を超える場合、出向先保険代理店の自立を阻害するおそれがあることに留意する。
イ.営業企画部門や法令等遵守態勢の整備を担う部門など、保険代理店の業務の中核的な役割を担う部署への長期にわたる出向は、当該保険代理店の自立を阻害するおそれがあることに留意する。④ 保険金関連事業を兼業する保険代理店に対する出向であって、修理費の算出等の保険金請求に関わる部門の業務に従事する場合など、当該出向が、保険会社における利益相反管理の観点から不適切なものではないか。
- ①では、以下の形態の出向が注意が必要とされています。
- 保険代理店が事業を営むために自ら負担すべき人件費や専門人材の育成又は確保に係る費用等を保険会社が肩代わりする場合
- 保険募集に直接関与する場合
- 保険募集に直接関与しない部門への出向であっても、保険募集方針の策定や取扱保険商品の選定、保険販売計画の企画・執行、保険募集人への特定商品に係る販売研修などに関与する場合
- ②では、出向先の顧客情報等を出向元の保険会社に共有するおそれが生じないように留意を求めています。
- ③では、出向者数や出向期間、出向先での業務内容について、特に業務内容としての留意事項が定められました。業務内容が「教育・指導、体制整備の支援の範疇を超える場合」や出向先での「営業企画部門や法令等遵守態勢の整備を担う部門への長期の出向」は保険代理店の自立を阻害するおそれがあるとされています。今後、「長期の出向」の解釈など((「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」では2年を超えるもの)が問題になりそうです。
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」『「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)』を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載される。
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