コラム

2025年5月13日
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【速報】令和7年5月12日公表「保険会社向けの総合的な監督指針」(案)を読む③

Ⅱ-4-2-12 保険代理店等に対する便宜供与

本項は保険業法改正案の説明資料において注記されていた「保険代理店に対する過度の便宜供与の防止」に対応する部分となります。

(保険業法改正案の説明資料の解説はこちら)

 

保険業法の一部を改正する法律案 説明資料 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/setsumei.pdf

 

Ⅱ-4-2-12 (1) 過度の便宜供与の防止

保険会社が、保険代理店等に対して便宜供与を行い、その見返りとして保険募集人が当該保険会社の保険商品を優先的に推奨することによって、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されるおそれがある。このため、保険会社は、以下のとおり、保険代理店等に対する過度の便宜供与を防止する必要がある。

(注1) 保険代理店等とは、保険代理店のほか、保険募集人である保険代理店の役員又は使用人や、その他保険会社による便宜供与が、特定の保険代理店に対する便宜供与として機能する相手方(具体的には、保険代理店と人的又は資本的に密接な関係を有する者(親会社等)や保険代理店の主要な取引先を含む)をいう(以下、Ⅱ-4-2-12 において同じ)。

(注2) 便宜供与の相手方が、一の保険会社等に専属する保険代理店であっても、当該保険代理店の専属を維持する目的等をもって、過度の便宜供与を行うことがないよう、適切な措置を講じる必要がある。

  • 注記1において、便宜供与の対象となる保険代理店等の定義が示されました。「保険代理店のほか、保険募集人である保険代理店の役員又は使用人や、その他保険会社による便宜供与が、特定の保険代理店に対する便宜供与として機能する相手方(具体的には、保険代理店と人的又は資本的に密接な関係を有する者(親会社等)保険代理店の主要な取引先を含む)」とされています。これまでも有識者会議では下図のとおり、議論の中でも保険代理店と人的又は資本的に密接な関係を有する者(親会社等)は対象に含まれていましたが、保険代理店の主要な取引先について含まれることが改めて明らかにされた(有識者会議報告書脚注11)ものと思われ、今後は「主要な取引先」の具体的な解釈が論点になると思われます。

有識者会議第2回事務局資料7p https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/siryou/20240425/siryou1.pdf 

  • 注記2において、主に過度の便宜供与は、乗合代理店における自社の保険商品を優遇してもらうために行われる過当競争防止のためとして、専属代理店は対象外との予断を持ちかねないところ、「一の保険会社等に専属する保険代理店であっても、当該保険代理店の専属を維持する目的等をもって、過度の便宜供与を行うことがないよう、適切な措置を講じる必要がある」とされました。

① 態勢整備

保険会社は、顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点から、保険代理店等に対する過度の便宜供与を防止するため、以下の措置を講じているか。

ア.過度の便宜供与の判断基準に係る社内規則等の策定

イ.上記ア.の社内規則等を踏まえた、営業部門等に対する適切な教育・管理・指導の実施及び便宜供与に係る意思決定や教育・管理・指導の実施に対するコンプライアンス部門等の適切な関与

ウ.保険代理店等に対して行っている便宜供与により、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていないかについて、リスクに応じた適切な頻度での内部監査及び保険代理店に対する監査の実施

エ.上記ウ.の監査結果に関する、取締役会等への報告及び当該監査結果を踏まえた取締役会等における評価・対応の検討

オ.顧客の適切な商品選択の機会が阻害されていると認められる場合における、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備

(注3) 上記ア.~オ.の実施にあたっては、営業部門等からの不当な介入が排除されている必要があることに留意する。

 

  • 「営業部門等に対する適切な教育・管理・指導の実施及び便宜供与に係る意思決定や教育・管理・指導の実施に対するコンプライアンス部門等の適切な関与が求められる」というのは、研修の実施だけでなく代理店に対する支援施策の決定に関してコンプライアンス部門の関与が求められるという趣旨と解されます。
  • 「上記ウ.の監査結果に関する、取締役会等への報告及び当該監査結果を踏まえた取締役会等における評価・対応の検討」としては、定時取締役会等におけるアジェンダとして監査報告を盛り込むことが有用と思われます。
  • 注記3として、「営業部門等からの不当な介入が排除されている必要がある」とされています。介入そのものではなく、不当な介入の排除とされていることから、今後は「営業部門等からの不当な介入」の具体例等が問題となります。

 

② 過度の便宜供与に係る判断基準
保険会社が保険代理店等に対して行う便宜供与に関し、過度なものであるか否かについては、以下に基づき判断する。
ア.自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引する便宜供与保険代理店等に対する便宜供与のうち、以下のいずれかの要素を含むものについては、特に顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれが高いことから、過度の便宜供与に該当する。
(ア) 便宜供与の実績に応じて、当該保険代理店や保険募集人である保険代理店の役員又は使用人において保険契約数や保険引受シェアの調整が行われる場合
(イ) 保険代理店等から保険会社に対し、物品等の販売数量の目標設定や購入数量の割当て等が行われる場合 

イ.実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するもの
上記ア.のほか、保険代理店等に対する便宜供与が過度なものであるか否かについては、当該便宜供与の趣旨・目的のほか、価格・数量・頻度・期間及びその負担者等を総合的に勘案しつつ、当該便宜供与によって生じ得る弊害の内容・程度を考慮し、社会通念に照らして妥当であるかによって判断する。
なお、判断は個別具体的に行われるべきであるが、例えば、以下の行為については、実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するものとして、過度の便宜供与に該当し得る。

(ア) 保険会社の役職員が、保険代理店等から、他の保険会社の購入実績との比較を提示されるなど黙示の圧力を受けたことを背景として、自社の役職員に対し、数量等の報告やとりまとめを伴う物品の購入をあっせんする行為
(イ) 保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が保険業と関連性の低い役務を提供する形で参加・協力する行為
(ウ) 保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が休日や業務時間外に参加・協力する行為
(エ) 本来は保険代理店等が負担すべき費用を保険会社が負担する行為、又は保険代理店等が自らの責任において行うべき業務に対し保険会社が役務を提供する行為
(オ) 保険代理店等の求めに応じ、役務の対価としての実態がない又は保険会社若しくは保険代理店等において対価性の検証が困難な業務委託費、協賛金、商標使用料、広告費用等の金銭を拠出する行為 

  • アについては、いわゆるニギリ、ノルマと呼ばれる要素があるものについては、過度の便宜供与に該当するものとされます。
  • イについて、個別事案において「当該便宜供与の趣旨・目的のほか、価格・数量・頻度・期間及びその負担者等を総合的に勘案しつつ、当該便宜供与によって生じ得る弊害の内容・程度を考慮し、社会通念に照らして妥当であるかによって判断する。」とされました。「目的が違う」というだけでは本項に言う過度の便宜供与の判断方法として不十分であり、当該便宜供与によって生じ得る弊害の内容・程度を考慮し、社会通念に照らして妥当であるかを判断することになります。今後は「便宜供与によって生じ得る弊害の内容、程度」の具体例が問題となってきます。
  • イに列挙された個別事案について、これらは過度の便宜供与に該当し得るものとされました。これらの行為は、上記の態勢整備において、実施の際にコンプライアンス部門のチェックを毎回通すことが求められると思われます。また、形式的に該当しない場合であっても、同じような行為が継続された場合や、特定の代理店のみに偏っている場合などは検証が必要と解されるところ、定期的な振り返りができる態勢整備も求められると解されます。なお、(オ)について、「役務の対価としての実態がない又は保険会社若しくは保険代理店等において対価性の検証が困難」とされたことについては、実態があれば問題がないのか、関係性維持のためなどの抽象的なもので問題ないのか解釈が必要となるので、今後の論点になると思われます。

Ⅱ-4-2-12 (2)

(2) 法 128 条に基づく報告徴求監督当局は、保険会社に対し、上記(1)に係る取組状況について、必要に応じて法第 128 条に基づき報告を求める。

「問題がある場合」などの枕詞がついていないので、通常業務として態勢整備が進められているのかの報告が求められることになります。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」『「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)』を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載される。
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