コラム

2025年5月13日
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【速報】令和7年5月12日公表「保険会社向けの総合的な監督指針」(案)を読む②

Ⅱ-4-2-9 保険募集人の体制整備義務(法第 294 条の 3 関係)

本項は、特に比較推奨販売に関する保険募集人の体制整備義務を追加しています。

損保代理店についての限定がないので、生保代理店も対象となっていることに留意が必要です。

 

Ⅱ-4-2-9(6)

二以上の所属保険会社等を有する保険募集人が、保険会社等に対して過度の便宜供与を求めることは、当該保険募集人において、便宜供与の実績に応じて特定の保険商品を推奨する事態を誘発し、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがあるため、防止される必要がある。そこで、二以上の所属保険会社等を有する保険募集人は、比較推奨販売を行う場合には、顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点から、Ⅱ-4-2-12 を踏まえ、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることを防止するため、自己の規模や特性に応じて、以下の措置を講じているか。 

(注) 一の保険会社等に専属する保険募集人であっても、専属の維持の見返りとして、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることがないよう、適切な措置を講じる必要がある。
ア. 過度の便宜供与に係る判断基準の社内規則等への規定
イ. 上記ア.の社内規則等を踏まえた、保険募集人による保険会社等に対する便宜供与の要求及び受入れの制限に関する適切な教育・管理・指導の実施
ウ. 保険会社等からの便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証
エ. 上記ウ.の確認・検証結果を踏まえた、経営陣における評価・対応の検討
オ. 自社の比較推奨販売への影響が生じていると認められる場合における、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備

比較推奨販売を適切に行うために、保険募集人(代理店)により保険会社に対する便宜供与を求めることと受けいれることの防止措置が求められています。

  • 「Ⅱ-4-2-12 を踏まえ」とは、新設される「Ⅱ-4-2-12 保険代理店等に対する便宜供与」のことを指します。
  • 注記の「一の保険会社等に専属する保険募集人であっても」とは、比較推奨販売が「二以上の所属保険会社等を有する保険募集人」が行うものであるので、一見すると専属代理店は本規制の対象外とも思われるところ、その専属代理店が「専属の維持の見返りとして、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることがないよう」に規制の対象になる場合が注記されています。今後は、「専属の維持の見返りとして」の解釈(例えば、「乗合から専属に切り替える場合」や、「見返りとして」には客観的な対価関係が求められるのかなど)が問題となってくると思われます。
  • 「保険会社等からの便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証」とは、便宜供与があった場合、それを受けて比較推奨販売への誘導が行われていないかを確認、また、仮説を立てて実証することが求められます。保険代理店としては、下図のような便宜供与についてリスト化しておくことが有用と思われます。

有識者会議第2回事務局資料 https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/siryou/20240425/siryou1.pdf

 

  • 「上記ウ.の確認・検証結果を踏まえた、経営陣における評価・対応の検討」については、保険代理店の取締役会等役員の評価、対応を行うことを求めています。今後、保険代理店における定時取締役会等のアジェンダに盛り込んでおくことなどが考えられます。

 

Ⅱ-4-2-9(10)

保険募集人の体制整備の状況については、深度あるヒアリング等のオフサイトモニタリングを行うことや、必要に応じて法第 305条に基づく報告を求めること、同条に基づく立入検査の実施を通じて把握する。その上で、重大な問題があると認められる場合には、法第 306 条又は第 307 条第 1 項に基づき行政処分を行うものとする。

現行の「問題があると認められるときは、・・・報告を求め」るとされていた枕詞が削除されました。

通常の検査の対象として上述の体制整備状況がオフサイトでモニタリングされます。

保険代理店としては速やかに社内規則の策定と便宜供与のリストの作成、社内周知、取締役会のアジェンダの用意等を進めていくことが求められます。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長

2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、法務責任者として株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」『「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)』を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載される。
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