コラム

2025年4月1日
Twitter Facebook LINE

「評価指針」(案)の公表とトライアル運用から始まる損保代理店業務品質評価

1 「代理店業務品質に関する評価指針」(案)の意見公募結果を公表

2025年3月28日、 損保協会から「代理店業務品質に関する評価指針」(案)の意見公募結果(https://www.sonpo.or.jp/news/release/2024/g34l0i00000075wa-att/250328_01.pdf)が公表されました。

2025年度から「代理店業務品質に関する評価指針(以下、評価指針)」のトライアル運用が始まり、2026年度の本格運用に向けた動きが加速しています。本稿では、制度の背景や概要、代理店が押さえるべき実務上のポイントを簡潔に解説します。

2 業界の信頼回復と「顧客本位」の徹底

この評価制度は、近年の保険金不正請求や募集管理上の問題等を背景に、保険代理店と保険会社の関係性を見直し、業界全体で「顧客本位の業務運営」を浸透させるため、第三者評価を行う枠組みを構築するものです。

評価指針では、「この業界共通の評価基準は、損保会社間の公正な競争を阻害することがないよう十分に留意したうえで、代理店の業務品質のうち顧客本位の業務運営に関する項目・内容に沿って構成し、かつ、最低限必要な業務品質が確保されているかを判定できるようなものとし、また、第三者による評価運営においても、損保会社による代理店指導等を補完する枠組みの中で、顧客本位の業務運営の徹底に資するよう、適切な代理店の業務品質評価を追求していく。 」(評価指針本編5p https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/hyoka_shishin.pdf)ものとされています。

 

①2025年度はトライアル運用期間
評価指針を本格運用するのは2026年度ですが、その前の1年間(2025年度)は「トライアル運用期間」と位置付けられています。このトライアル運用期間中に、評議会が設置され、フォローアップ点検の実施も計画されています。

https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/future_actions.pdf

 

②自己点検チェックシートの運用
代理店と募集人が業務品質を自ら点検するための「自己点検チェックシート」が公表されており、代理店と募集人はそれぞれに用意されたチェックシートを用いて、項目や回答方法の確認を進めます。

https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/checksheet_dairiten_2025.xlsx

そして、自己点検チェックを行う際は、「自己点検チェックの取組み」の手引き《2025年度》(https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/check_guide_2025.pdf)を横において行うことが推奨されます。

こちらは自己点検チェックについてどのように行うか手取り足取り(時期や頻度、責任者の決め方など細かく)記載されており、これに則って進めるだけで漏れなく点検が可能となります。

https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/check_guide_2025.pdf

また、最後に記載のある募集コンプライアンスガイド参照ページをみることによって、チェックリストで確認したいことの趣旨を確認しながら進めることができ、現在は追補版と本編が別冊になっていますがこれらを相互に参照できる大変優れた構成になっていると感じます。

https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/check_guide_2025.pdf

 

③重点テーマは4分野
「不適切な便宜供与の禁止」「利益相反管理」「苦情の対応・管理」「個人情報管理」の4項目では、チェックリストにおいて記述式設問への回答が必須とされており、特に重視されているものと思われます。

なお、記述式への回答については、「たとえば、記述式への対応については、おそらくこれまでの自己点検チェックの取組みにはなかったものかもしれない。記載内容によって評価が下げられるといったものではなく、実態を把握するための記述であるということや、どう活用されるのかを代理店にきちんと伝えていくため、本格運用の前に一定期間を設ける必要があると思う」(「自己点検チェックの取組み」の手引き《2025年度》4p)との注意があります。

まずは実態を把握して、対話を行っていくための取り組みとして臨む姿勢が求められます。

 

3 代理店が意識すべきポイント

①チェックシートの記述式設問に備える
上記4つの重点領域(便宜供与の禁止、利益相反管理など)について、マニュアルや社内規定と実際の運用との間に齟齬がないか確認することが必要です。

②改善点を把握する
トライアル段階では、法改正に向けて詳細なチェック項目も設けられています。

そのため、すべてを完璧に回答することは至難の業です。自己点検で発見された改善点を今後にどうつなげるかが重要となります。

③社内での対話・意見交換の実施
自己点検において、責任者や募集人同士で意識を共有し、積極的に意見・事例を出し合う場を設けることが大変有効です。

特に社内での意見交換は日常的な取り組みとしても有効ですし、「顧客本位の業務運営」を一緒に考える機会を積極的に持つべきでしょう。

④フォローアップ点検の実施

https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/quality/files/future_actions.pdf

 

フォローアップ点検は、代理店業務品質評議会が必要と判断した代理店を対象に実施されるものです。

この対象に選ばれる15の乗合代理店について、本格運用ではリスクベースで選ばられるがトライアル運用では任意の代理店を対象とすることとなっており、どういった代理店が選ばれ、トライアルが運用されるのか注目していきたいと思います。

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
Twitter Facebook LINE

コラム一覧