コラム

2025年3月11日
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【速報】保険業法改正案の逐条解説②第100条の2の2(保険会社等による顧客の利益保護のための体制整備義務)

2 第100条の2の2(保険会社等による顧客の利益保護のための体制整備義務)

[改正案]

(顧客の利益の保護のための体制整備)

第100条の2の2(保険会社等による顧客の利益保護のための体制整備義務)

保険会社は、当該保険会社、当該保険会社を所属保険会社等とする兼業特定保険募集人又は当該保険会社の親金融機関等若しくは子金融機関等が行う取引に伴い、当該保険会社、当該兼業特定保険募集人又は当該子金融機関等が行う保険関連業務(第九十七条、第九十八条及び第九十九条(これらの規定を第百九十九条において準用する場合を含む。)の規定並びに他の法律により保険会社又は外国保険会社等が行うことができる業務をいう。以下同じ。)に係る顧客(当該兼業特定保険募集人にあっては、当該保険会社から委託を受けた業務に係る顧客に限る。)の利益が不当に害されることのないよう、内閣府令で定めるところにより、当該保険関連業務に関する情報を適正に管理し、かつ、当該保険関連業務の実施状況を適切に監視するための体制の整備その他必要な措置を講じなければならない。

2前項の「兼業特定保険募集人」とは、第二百七十六条に規定する特定保険募集人のうち、第二百九十四条の三第一項に規定する保険募集の業務以外の業務(当該業務の対価にその所属保険会社等から保険契約に基づき支払われる保険金が充てられる業務であって当該保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務として内閣府令で定めるものに限る。)を行う者をいう。

(以下略)

https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/shinkyuu.pdf

【ポイント】

  • 保険会社等に対し、兼業特定保険募集人の業務が顧客の利益を害するリスクを監視する義務を定めました。
  • 特定大規模乗合保険募集人かつ兼業特定保険募集人に対し、本条と保険業法294条の4第4項により、「保険募集の業務以外の業務(当該業務の対価にその所属保険会社等から保険契約に基づき支払われる保険金が充てられる業務であって当該保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務として内閣府令で定めるものに限る。)」が顧客の利益が不当に害されることがないよう管理する体制を構築する義務が課されます。

【解説】

要綱において「保険会社、外国保険会社等及び保険持株会社に対して、兼業特定保険募集人が行う取引により保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることのないよう、当該保険関連業務の実施状況を適切に監視するための体制整備を講じなければならないこととする。(保険業法第 100 条の2の2、第 193 条の2及び第 271 条の 21 の3関係)」(https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/youkou.pdf)とされました。

この体制整備義務が設けられた背景についての考察は、すでに別のコラムで記載したところです(参照;【保険業法改正の羅針盤⑦】顧客の利益が不当に害されないための体制整備義務が求められる兼業保険代理店とはhttps://hkn.jp/column/25-12/)。

①兼業特定保険募集人の要件

兼業特定保険募集人の定義について、「第二百七十六条に規定する特定保険募集人のうち、第二百九十四条の三第一項に規定する保険募集の業務以外の業務(当該業務の対価にその所属保険会社等から保険契約に基づき支払われる保険金が充てられる業務であって当該保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務として内閣府令で定めるものに限る。)を行う者」とされました。現時点では、自動車修理業を営む者やペットクリニックを営む者などが対象になると予想されます。

②保険会社に課される義務

保険会社は、兼業特定保険募集人が行う取引により保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることのないよう、当該保険関連業務の実施状況を適切に監視するための体制整備を講じなければならないとされています。

この体制整備義務の内容としては、「内閣府令において、左記の兼業に係る体制整備を講じているかを確認し疑義がある兼業代理店に対する支払査定の厳格化、保険金支払管理部門と営業部門との適切な分離を求める予定」(https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/setsumei.pdf)とされています。

この点については、金融審議会WG報告書内で保険会社は「保険金関連事業を兼業する全ての委託先の保険代理店における、不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害するおそれのある取引を特定した上で、それを適切に管理する方針を策定・公表する。」(金融審議会WG報告書9phttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf)とされていることから、取引の特定とそれを管理する方針を策定し、公表することが必要になるでしょう。また、保険会社は、これまで監査を行ってきた範囲(委託業務の範囲)を超えて、他業の適正な体制整備を確認することになりますから、保険業法にとどまらない、広範な法令等に関する知識と他業に関する正確な理解が求められるようになります。

③特定大規模乗合損害保険代理店かつ兼業特定保険募集人の負う体制整備義務

特定大規模乗合損害保険代理店かつ兼業特定保険募集人は、保険業法294条の4第4号で以下のとおり体制整備義務が課されますが、詳細の多くは内閣府令に委任されています。

4.第百条の二の二第二項に規定する兼業特定保険募集人である特定大規模乗合損害保険代理店にあっては、次に掲げる措置

イ)   その行う保険募集の業務以外の業務(第百条の二の二第二項に規定する保険募集の業務以外の業務をいい、保険金の支払の請求に関するものに限る。以下この号において同じ。)が保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう適切に監視することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務により当該特定大規模乗合損害保険代理店又はその所属保険会社等が行う保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることを防止するために必要な措置として内閣府令で定める措置

ロ)   その行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情を受け付けるための体制の整備、当該苦情の処理に関する記録を作成しこれを保存することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置として内閣府令で定める措置

この点については、金融審議会WG報告書において「(ⅰ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害するおそれのある取引を特定した上で、(ⅱ)それを適切に管理する方針の策定・公表、(ⅲ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害することを防止するためのその他の体制整備(修理費等の請求に係る適切な管理体制の整備等)を求めることが必要である。」(金融審議会WG報告書6phttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf)とされていますので、その具体的な内容(取引の特定や管理方針の策定など)が内閣府令に盛り込まれるものと予想されます。

 

【次回に続く・・・】

執筆者プロフィール

中村 譲
中村 譲
株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
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