コラム
【速報】保険業法改正案の逐条解説①第294条の4(特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する体制整備義務)

1 第294条の4(特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する体制整備義務)
[改正案(新設)]
(特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する措置)
第二百九十四条の四
特定大規模乗合損害保険代理店(損害保険代理店のうち、二以上の所属保険会社等を有する法人であって各事業年度における所属保険会社等から保険募集の業務に関して受領した手数料、報酬その他の対価の額が内閣府令で定める額以上であることその他内閣府令で定める要件に該当するものをいう。第二号及び第四号において同じ。)は、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる措置を講じなければならない。
1. 保険募集の業務を行う営業所又は事務所ごとに、当該営業所又は事務所において保険募集の業務を行う役員又は使用人に対し、これらの者が法令等(法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則をいう。次号において同じ。)を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者(同号において「法令等遵守責任者」という。)を設置すること。
2. 本店又は主たる事務所に、法令等遵守責任者を指揮するとともに、特定大規模乗合損害保険代理店の役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者を設置すること。
3. 保険募集の業務に係る苦情を受け付けるための体制の整備、当該苦情の処理に関する記録を作成しこれを保存することその他の保険募集の業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置として内閣府令で定める措置
4. 第百条の二の二第二項に規定する兼業特定保険募集人である特定大規模乗合損害保険代理店にあっては、次に掲げる措置
イ) その行う保険募集の業務以外の業務(第百条の二の二第二項に規定する保険募集の業務以外の業務をいい、保険金の支払の請求に関するものに限る。以下この号において同じ。)が保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう適切に監視することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務により当該特定大規模乗合損害保険代理店又はその所属保険会社等が行う保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることを防止するために必要な措置として内閣府令で定める措置
ロ) その行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情を受け付けるための体制の整備、当該苦情の処理に関する記録を作成しこれを保存することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置として内閣府令で定める措置
5. その他内閣府令で定める措置
https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/shinkyuu.pdf
【ポイント】
「特定大規模乗合損害保険代理店」を対象に上乗せ規制を設け、内部統制や苦情処理体制、兼業業務の監視体制などを強化する趣旨です。
【改正に伴う保険代理店と保険会社の対応事項】
①特定大規模乗合損害保険代理店※特に大規模な乗合生命保険代理店に対しても、政令において同じ義務が追加されます。
- (事務所等ごとに)法令等遵守責任者、(本店等に)統括責任者を設置
- 外部からの苦情の適切な処理
- 内閣府令において、内部通報や内部監査体制の構築
- 《更に、当該代理店が、保険金から対価の支払いを受ける業務(修理業等)を兼業する場合》保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう、兼業業務を適切に監視する体制整備義務
②保険会社に対する体制整備義務の強化
- 兼業代理店の取引により保険会社の顧客の利益が不当に害されることを防止するため、業務の適切な管理その他の必要な体制整備義務
- 内閣府令において、左記の兼業に係る体制整備を講じているかを確認し疑義がある兼業代理店に対する支払査定の厳格化、保険金支払管理部門と営業部門との適切な分離
【解説】
要綱において「特定大規模乗合損害保険代理店は、法令等遵守責任者を設置する措置、苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置等の体制整備を講ずるとともに、兼業特定保険募集人である場合にあっては、保険募集の業務以外の業務が保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう適切に監視すること等の体制整備を講じなければならないこととする。」(https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/youkou.pdf)とされました。
①特定大規模乗合損害保険代理店の要件
特定大規模乗合損害保険代理店の要件については、モニタリングの連続性などから事業報告書の提出義務が義務付けられている特定保険募集人の指標などを踏まえ、保険料収入額ではなく、「所属保険会社等から保険募集の業務に関して受領した手数料、報酬その他の対価の額」を指標とされることとなりました(有識者会議WG報告書脚注7参照https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf)。
この「保険募集の業務」の定義に関しては、保険業法294条の3において「自らが保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入させるための行為に係る業務その他の保険募集の業務に密接に関連する業務を含む。」とされています(すでに締結されている保険契約に被保険者として追加加入させる行為も含まれます(平成27年5月27日パブコメ№428))ので、各代理店、保険会社において手数料等が発生している「保険募集の業務」の洗い出しが必要となります。そして、基準価格については内閣府令に委任されました。
②(事務所等ごとに)法令等遵守責任者、(本店等に)統括責任者を設置
法令等遵守責任者、統括責任者については、その資格要件として現在試験制度の新設が検討されています。そのうえで、「法令等遵守責任者や統括責任者の設置に当たっては、これらの者が保険代理店の経営陣に直接報告できるようなレポーティングラインが確保されていることや、営業部門からの介入が及ばないような体制が確保されていることが必要」であり、さらに「これらの者は保険募集業務に従事することなく、管理業務に専念できるようにすべき」との指摘がなされています(有識者会議WG報告書脚注9参照https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf)。
なお、この点に関連して、金融審議会WGにおいても銀行窓販の議論が参照されています。
(第2回金融審議会WG事務局資料 https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo_wg/siryou/20241016/1.pdf)
銀行窓販においては、「銀行等は、規則第212条第2項第3号に規定する保険募集に係る法令等の遵守を確保する業務が確実に実施されるよう、同号に規定する法令等の遵守を確保する業務に係る責任者(当該責任者を指揮し保険募集に係る法令等の遵守を確保する業務を統括管理する統括責任者を含む。)について、保険募集に関する法令や保険契約に関する知識等を有する人材を配置しているか。」(監督指針II -4-2-6-8 銀行等の保険募集に係る法令等遵守責任者等)との定めがありますが、その資格要件はありません。
今回の保険業法改正は、大きな不祥事件の再発防止を目的とした改正であることから、新設される役職には、違法行為の防波堤となるだけの必要十分な保険業務に関する知識と営業部門からの独立性が求められるものと解されますから、この点について、今後議論が深められていくことが期待されます。
③今後調整を要する論点
本法律案と同日に公表された「保険業に対する信頼性の確保及びその健全な発展を図るための措置(令和7年3月7日公表)」によると、以下の記載があります。
この記載の通り、特定大規模乗合保険募集人の要件は内閣府令に委任されて調整が続いておりますし、兼業に関する体制整備や管理方針の内容もその多くが内閣府令に委任されて詳細が詰められることとなります。
【「【速報】保険業法改正案の逐条解説②第100条の2の2(保険会社等による顧客の利益保護のための体制整備義務)」に続く・・・】
執筆者プロフィール

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株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
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