コラム
【保険業法改正の羅針盤⑤】保険会社による保険代理店への便宜供与の規制とDX化支援のあり方
今回、金融審議会WGにおいて保険会社による保険代理店への過度な便宜供与について言及がなされました。この論点に関連し、保険会社による保険代理店の体制整備支援は、保険会社による保険代理店に対するDX化支援の可否として、当社のようなインシュアテック企業への影響が大きいので、検討します。
目次
1 有識者会議における過度の便宜供与についての検討
この議論の前提となる有識者会議(https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/index.html)では、その第2回で主に兼業代理店における「本業支援等」としての便宜供与に関する議論がなされています。今回検討の対象となる、保険会社による保険代理店への役務等の提供の中に、「代理店への保険募集業務に関するシステムの構築支援」という事例が記載されていますので、DX化支援も、便宜供与に該当することとなります。
有識者会議事務局資料
https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/siryou/20240425/siryou1.pdf
2 WG報告書から見る保険会社による保険代理店への「過度の便宜供与」規制
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf
WG報告書においては、保険会社による保険代理店に対する過度の便宜供与について、脚注31において具体的な記載がされています。
今般の保険金不正請求事案においては、保険会社が保険代理店に対して便宜供与(保険代理店に対する出向を含む)を積極的に行い、その見返りに同保険会社の保険商品が優先的に推奨されていたことが明らかになったことから、有識者会議における議論を踏まえ、保険会社による自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するような様々な形態での過度な便宜供与を解消する方向で、監督指針の改正も含め、検討・対応が進められているところである。(WG報告書15p)
この脚注31にある「検討・対応が進められているところであす」とされたもの一つが、損保協会の出している募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)です。
3 募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)における過度の便宜供与に関する記載
https://www.sonpo.or.jp/about/pdf/tuiho.pdf
募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)17p
募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)において、便宜供与が過度なものになっていないかのメルクマールとして以下の視点が示されました。
- 公正な選定プロセスを経ず(合理的な理由なく)、購入や発注を特定の代理店に 集中させていないか
- 保険会社の役職員または取引先などに購入や発注等に関して強制力が及んでいないか
- 本来、代理店がなすべき事業活動(役務)を無償で肩代わりしていないか
(募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)19p)
加えて、「価格・経済価値、費用分担、数量・規模、頻度・期間によっては、社会通念に照らして妥当性がなく、不適切な行為とみなされるおそれがあります」との留意事項も指摘されています(募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)19p)
4 保険会社による保険代理店のDX化支援における視点
これまでの「過度の便宜供与の問題」(および情報漏えいの問題)を受けて、保険会社から保険代理店への出向者の多くが本社に戻ることとなる見通しです。そうすると、これまで保険会社は、問題のある便宜供与に充てられていたリソースの分配を見直す必要があります。
この点について、「今までは便宜供与に充てられていたリソースが、顧客本位の保険商品・サービスの開発・提供のために充てられるよう、損害保険会社はそのリソース配分を徹底的に見直すべきである。これを含む各損害保険会社における各般の経営努力を通じて、社会環境の変化や顧客のニーズ等を踏まえた多様かつ差別化された新たな保険商品・サービスの開発・供給や、寡占的な市場への参入促進等を通じて、損害保険市場全体の健全な発展が図られていくことを期待したい。」(WG報告書25p)との言及もなされています。この要望に応える施策の一つが、「保険会社による保険代理店のDX化支援」だと考えられ、これは、WG報告書において脚注59にも記載されています。
保険会社等が、保険募集や保険金支払等の局面において、デジタル化を進め、各種のデータを適切に活用することができれば、管理部門等によるモニタリングが強化され、問題事案に対するけん制にもなるとの指摘もある。(WG報告書23p)
出向者の引き上げによるリソースの再分配として、保険会社による保険代理店のDX化支援は、保険代理店全体の募集コンプライアンスの向上につながりますし、また、捻出される時間を活用して顧客の最善の利益を勘案する時間の捻出につながります。
さらに、今後ハ方式が廃止されることにより、損保においても保険募集時における意向把握の記録、比較推奨販売における理由説明の記録(検証可能な体制整備)の必要性はますます高まっていくことから、これらの業務に耐えうるデジタル化による対応は、もはや法改正の前提とされているとも解されます。
5 まとめ
以上をまとめますと、保険会社による保険代理店のDX化支援は、便宜供与に該当するものの、募集コンプライアンスガイド追補版(第2版)のメルクマールを参考にしつつ適切に実施されることで、募集コンプライアンスの向上や顧客本位の業務運営の徹底につながるものとして、新たなリソースの再配分先として有力な選択肢といえ、迫る保険業法改正対応に向けて積極的な推進が期待されるものと考えます。
執筆者プロフィール
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株式会社hokan 法務・コンプライアンス室長/弁護士
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。
都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。
平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。
これまでに「金融機関の法務対策6000講(共著)」「ペット保険の法的課題(慶應大学保険学会)」「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情2024.9.17)」を執筆し、日経新聞(2024.9.4朝刊金融経済面)にもコメントが掲載。
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