コラム
【速報②】令和7年保険業法改正に係る内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの実施についてが公表されました

速報②は、特別利益の提供の禁止をとりあげます。
(4)保険会社等による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止
・保険契約者又は被保険者と密接な関係を有する者を規制対象に拡充
1 保険業法施行規則の改正案
(保険契約者又は被保険者と密接な関係を有する者)
第二百三十二条の二
法第三百条第一項第五号及び第八号、第三百一条各号並びに第三百一条の二各号に規定する内閣府令で定める密接な関係を有する者は、次に掲げる者とする。
一 当該保険契約者又は被保険者(法人である者に限る。以下この条において同じ。)の役員又は使用人(当該法人と実質的に同一と認められる者に限る。)
二 当該保険契約者又は被保険者の子法人等
三 当該保険契約者又は被保険者を子法人等(令第十三条の五の二第三項後段の規定により子法人等とみなされる者を除く。次号及び第五号において同じ。)とする親法人等(同項後段の規定により親法人等とみなされる者を除く。次号及び第五号において同じ。)
四 当該保険契約者又は被保険者を子法人等とする親法人等の親法人等
五 当該保険契約者又は被保険者を子法人等とする親法人等の子法人等(当該保険契約者又は被保険者を除く。)
六 当該保険契約者又は被保険者の総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権を保有する個人(第一号に掲げる者を除く。)
改正保険業法において定義を委任されていた「保険契約者又は被保険者と密接な関係を有する者」が定められました。
保険契約者又は被保険者を法人に限定したうえで、その役員または使用人(当該法人と実質的に同一と認められるものに限る)と、資本関係で親子関係にある法人等や議決権を50パーセント以上保有する個人が対象とされました。
2 監督指針の改正案
監督指針改正案では、禁止される行為の具体的な内容が整理されています。
Ⅱ-4-2-2 保険契約の募集上の留意点
(8) 法第 300 条第 1 項第 5 号関係
① 保険会社又は保険募集人が、保険契約の締結又は保険募集に関し、保険契約者若しくは被保険者又はこれらの者と内閣府令で定める密接な関係を有する者(以下、Ⅱ-4-2-2(8)において「保険契約者等」という。)(注 1)との間で、取引等を行う場合においては、以下のような点に留意して、「特別利益の提供」に該当しないものとなっているか。
(注 1) 取引等の相手方が、保険契約者等に該当しない場合であっても、規則第 234 条第 1 項第 1 号に該当するものではないか、留意する必要がある。
ここにいう規則234条1項1号は、潜脱行為の禁止を定めています。
(保険契約の締結又は保険募集に関する禁止行為)
第二百三十四条 法第三百条第一項第九号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一 何らの名義によってするかを問わず、法第三百条第一項第五号に規定する行為の同項の規定による禁止を免れる行為
ア. 物品の購入、役務の提供その他の取引(注 2)に関し、以下のような点から、取引上の社会通念に照らし相当であると認められないものとなっていないか。
(ア) 保険会社又は保険募集人において、保険契約の締結や、保険契約数又は保険引受シェアの調整の前提として、当該取引を行う又は当該取引の内容を決定することとされていないか(注 3)、(注 4)。
(イ) 当該取引が、保険会社又は保険募集人の事業運営において必要性のないもの又は事業運営上の必要性に照らし過大なものとなっていないか。
(ウ) 当該取引における、価格等の取引条件が、一般的な取引条件と比較し、著しく不合理なものとなっていないか。
(エ) 当該取引が、保険契約者間の公平性を著しく阻害するものとなっていないか。(注 2) ここでいう取引とは、保険契約に付帯されるサービス以外のものであって、売買その他保険契約者等との間で対価を
伴い行われるものをいう。なお、取引の性質上、本来は保険会社又は保険募集人において対価を得て行われるものであるにも関わらず、対価を得ずに行われる場合、当該対価の免除が下記イ.「その他特別利益の提供」に該当するおそれがあることに留意する必要がある。(注3) なお、例えば、事故防止・損害抑制に係るサービスについては、保険契約の締結や、保険契約数又は保険引受シェアの調整の前提として提供されることをもって、直ちに取引上の社会通念に照らして不相当と判断されるものではない。
(注4) 保険会社又は保険募集人において、保険契約の締結や、保険契約数又は保険引受シェアの調整の前提として、当該取引の内容を決定する場合とは、例えば、保険募集人が、特定の保険契約への加入を条件に、保険契約者等に販売する車両価格を値引くなどの行為が該当する。
これは改正保険業法300条1項5号で禁止される「物品の購入、役務の提供その他の取引であって取引上の社会通念に照らし相当であると認められないもの」の読み方に関する部分です。「その他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為」は別の項目としてイで述べられています。
注2では、「ここでいう取引とは保険契約に付帯されるサービス以外のものであって、売買その他保険契約者等との間で対価を伴い行われるもの」とされ、いわゆる付帯サービス(自動車保険におけるロード・サービスなど)は、この「取引」の定義から外れることになりました。
また、(ア)の主観的要件に関する脚注が重要です。注3の「事故防止・損害抑制に係るサービスについては、保険契約の締結や、保険契約数又は保険引受シェアの調整の前提として提供されることをもって、直ちに取引上の社会通念に照らして不相当と判断されるものではない。」とされました。これらのサービスは、まさに保険契約によって填補しようとする事故を防止するためのサービスであり、保険契約の締結と関連が強いことから、その主観的には「保険契約締結のため」となりますが、それだけで社会通念上不相当とはならないとされました。
なお、新聞報道などを賑わせている注4(保険募集人が、特定の保険契約への加入を条件に、保険契約者等に販売する車両価格を値引くなどの行為を明確に禁止したこと)については、これまでと解釈を変えるものではありませんが、行政処分が繰り返される中で、当局が監督指針に明記する必要性が高いと考えた行為類型をあげたものと思われます。
イ. 上記取引に該当しない、各種のサービスや物品の提供に関し、以下のような点から、「その他特別利益の提供」に該当しないものとなっているか。
(ア) 当該サービス等の経済的価値及び内容が、社会相当性を超えるものとなっていないか。
(イ) 当該サービス等が、換金性の程度と使途の範囲等に照らして、実質的に保険料の割引・割戻しに該当するものとなっ
ていないか。
(ウ) 当該サービス等の提供が、保険契約者間の公平性を著しく阻害するものとなっていないか。
アとの書き分けで言えば、対価性のないサービス提供や物品の提供については従前と同じこの観点から判断されることが明らかにされています。
なお、保険会社は、当該取引やサービス等の提供を通じ、他業禁止に反する行為を行っていないかについても留意する。
(注 5) 保険会社又は保険募集人が、保険契約者又は被保険者に対し、保険契約の締結によりポイントを付与し、当該ポイントに応じた生活関連の割引サービス等を提供している例があるが、その際、ポイントに応じてキャッシュバックを行うことは、保険料の割引・割戻しに該当し、法第 4 条第 2 項各号に掲げる書類に基づいて行う場合を除き、禁止されていることに留意する。
この点については改正はありません(HokanグループPA室のNote(https://note.com/hokangroup_pa)にて対談記事がありますので、詳細はそちらの記事を参照ください)
執筆者プロフィール

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株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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