コラム
「皆保険の“中核”を守る」時代に、民間保険はどこで価値を出すか

1 自民党と日本維新の会との連立政権合意書
自民党と日本維新の会の連携合意書には、「国民皆保険制度の中核を守るための公的保険の在り方および民間保険の活用に関する検討」という一文が盛り込まれました。
二、社会保障政策
▽25年度中に、以下を含む社会保障改革項目に関する具体的な骨子について合意し、26年度中に具体的な制度設計を行い、順次実行する。
(7)国民皆保険制度の中核を守るための公的保険の在り方および民間保険の活用に関する検討
これは「公的保険を維持しつつ、その輪郭をどのように設計するか」という方向性を明確に示すものです。
これまでも維新の社会保障改革提言や、政府の「新しい資本主義 2025年改訂版」においても、民間保険の活用について検討がなされています。公的保険制度の中核を守るために“守る範囲”、その外側にある領域を民間保険が補完していくということです。
ここに、生命保険や損保(特に傷害・所得補償・医療関連商品)のこれまでになかったニーズが発生する可能性があります。
2 公的保険の「輪郭」が変わる
これから議論されるのは、「どこまでを社会保険、公的保険が担い、どこからを民間保険の対象とするのか」という線引きの再設計です。
医療給付の範囲や自己負担、予防・健康増進の扱い、働けなくなった時の収入補償など―社会構造の変化にあわせて、公的保険の“中核”を再定義しようという流れです。
これまでも、「有効性評価が十分に求められる公的保険の手前の段階として民間保険に委ねられる分野に関する共通理解を醸成するため、保険外併用療養費制度等の各種制度に関する基本理解(プリンシプル)について、民間保険会社等と対話を深めることを通じ、民間保険会社等による自主的な商品開発の取組を促していく。 」とされていたように、保険会社には自主的な自由診療の範囲をカバーする商品開発が促されてきました(令和7年6月分「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を読む)

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001505995.pdf
今後は、この保険診療の範囲が再定義される可能性があり、自由診療の範囲となるものについて、民間保険でカバーをする必要性を感じる方が増えてくる可能性があります。
3 代理店に一層求められる「公的保険」について解説する力
こうした変化の中で、保険代理店の役割も大きく変わります。これから求められるのは「公的保険の解説者」としての機能です。
お客様にまず、公的制度でどこまでカバーされているのか、どんな時に“足りなくなる”のかをわかりやすく伝える。その上で、民間保険をどう組み合わせるかを提案する。この「順番」と「説明の丁寧さ」が、顧客の信頼と納得を生む鍵になります。
また、意向把握、比較推奨販売の重要性も高まります。公的保険と民間保険をセットで比較し、「どの保障を残して、どれを外したのか」を記録に残すことで、説明責任と顧客本位の業務運営を両立できます。
保険業法改正に加え、今後の日本全体の保険制度の在り方についても目を配っておくことが求められます。
執筆者プロフィール

- 株式会社Hokanグループ 弁護士/パブリック・アフェアーズ室長
兼コンプライアンス室長
2008年慶應義塾大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会)。都内法律事務所・損害保険会社・銀行を経て、株式会社hokanに入社。平成26年保険業法改正時には、保険会社内で改正対応業務に従事した経験を持つ。「「誠実義務」が求める保険実務におけるDXの方向性(週刊金融財政事情 2024.9.17)」、「実務担当者のための今日から始める保険業法改正対応」(保険毎日新聞 2025.5.15~7.3)等を執筆。
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